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銀の馬車道 鉱石の道

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ゴールデンウイークのイベントでは焼成作業を披露しながら窯元と観光客が交流した=篠山市今田町上立杭
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ゴールデンウイークのイベントでは焼成作業を披露しながら窯元と観光客が交流した=篠山市今田町上立杭
寄港地の関係者らでにぎわう観光物産PRブース=淡路夢舞台国際会議場
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寄港地の関係者らでにぎわう観光物産PRブース=淡路夢舞台国際会議場

 文化庁は今春、地域の歴史遺産や文化財の魅力を伝えるストーリーを認定する「日本遺産」に、新たに23道府県の17件を加えた。認定は地域の魅力を国内外に伝え、観光振興につなげるのが狙い。兵庫県関連では、但馬・播磨の6市町共同で申請した「播但貫く、銀の馬車道 鉱石の道」と、篠山市など全国6市町による「きっと恋する六古窯(ろっこよう)」のほか、淡路島や但馬、播磨地域などにもゆかりがある「北前船(きたまえぶね)」に関するストーリーも選ばれた。それぞれの地元では認定を機に、早くも仕掛けづくりが始まっている。((福直剛、長江優咲)

■日本六古窯 丹波焼の里、城下町連携

 篠山市は、丹波焼が「日本六古窯」の産地の一つとして認定を受けた。2015年、デカンショ節にまつわるストーリーで選ばれたのに続き2件目だ。今回の認定直後の大型連休には、展示即売会や作陶の様子を公開するイベントを開き、早速観光客にアピールした。

 5月10日、六古窯の産地がある全国6市町の担当者が京都市内で集まり、今後の方針を話し合った。6市町は近年、行政間の交流が薄れていたが、認定を機に連携を深める方針で一致。各産地単独だけでなく六古窯共同で催しを企画し観光客にPRしたり、旅行会社に商品の開発を促したりし、認定タイトルのように陶芸に「恋してもらいたい」考えだ。

 今回の認定の意義について市商工観光課の赤松一也課長は「篠山の二大観光拠点は城下町地区と丹波焼の窯元が並ぶ今田地区。二つの日本遺産認定を活用し、観光客に市内を周遊してもらえるようにしたい」と話す。

 丹波立杭陶磁器協同組合の市野清治前理事長も「城下町を訪れた人たちにどうやって今田まで足を運んでもらうか。陶芸の魅力を知ってもらいどれだけリピーターを増やせるか。日本遺産認定は絶好の機会」と同様の考えを示す。補助金額が決まっていないため「具体的な取り組みはこれから考える」としながらも、「行政と連携しながら観光客が長く滞在できる仕掛けをつくりたい」と意欲をみせる。

 篠山市は本年度、国の「景観刷新モデル地区」に選ばれ、無電柱化や道路の整備など、城下町地区の観光客増に向けて国が背中を押してくれることになった。そこに飛び込んできた日本遺産認定の朗報。篠山のさらなる観光振興のためには、今田地区の活性化が鍵を握りそうだ。

【きっと恋する六古窯 -日本生まれ日本育ちのやきもの産地-】

 丹波焼や備前焼(岡山県備前市)など六つの焼き物は「日本六古窯」と呼ばれ、縄文時代から続いた古来の技術を継承する。篠山市からは丹波立杭登窯(たんばたちくいのぼりがま)など5件が構成文化財になった。各産地では、丘陵地に残る窯跡や工房へ続く細い坂道が迷路のように入り組んでいる。恋しい人を探すように道をたどれば、時空を超えて日本の原風景に出合うことができる-とPRしている。

■北前船寄港地 淡路島、フォーラム盛況

 「日本遺産認定後初のフォーラムを嘉兵衛(かへえ)さんの出身地・淡路島で開催でき、歴史の因縁を感じています」

 5月12日、淡路市の淡路夢舞台国際会議場。4月28日に「北前船の寄港地・船主集落」が日本遺産認定を受けたばかりとあって、祝賀ムードに包まれ開幕した「北前船寄港地フォーラム」で、議長の作家石川好さんが感慨深げにあいさつした。

 江戸時代から明治にかけ、関西と北海道を結び物流網を築いた「北前船」。全国の寄港地関係者が集うフォーラムは2007年から各地で開かれ、今回兵庫県内では初めて、北前船交易で活躍した豪商・高田屋嘉兵衛の地元、淡路島で実施された。

 「(嘉兵衛の船である)辰悦丸(しんえつまる)をもう一度復元しよう」「これだけ関係自治体が多ければ、NHKの大河ドラマも狙えるのでは」-。高田屋嘉兵衛の精神から地域創生を考えたパネル討論では、認定を追い風にした意見が飛び出した。

 12道府県の特産品などが並んだ観光物産PRブースは、さながら関係者の名刺交換会に。地元の観光振興につなげるべく、寄港地の豊岡市やたつの市、北前船の帆布を生み出した工楽(くらく)松右衛門の出身地・高砂市など県内に点在する関係自治体の担当者も熱心に交流を深めていた。

 すでに次なる取り組みを進める住民団体もある。寄港地の一つ、赤穂市の「坂越のまち並みを創る会」は、他地域の寄港地とともに“ゆかりの地”としての機運を盛り上げようと、6月に地元で開く「北前船講座」にたつの市や岡山県、小豆島などの関係者を招く。ブースで販売した銘菓の包装紙には、北前船の絵とともに「祝・日本遺産認定」の文字を早速印字。船の新たな模型も制作し、門田守弘会長(65)は「関係自治体の多さを生かすほかない。県内各地でも協力してイベントを開けたら」と期待を寄せる。

 一方、高田屋嘉兵衛の縁戚に当たる顕彰会の高田耕作理事長(69)=洲本市五色町都志=は1985年開催の「くにうみの祭典」で辰悦丸が復元されたことに触れ「復元が北前船を使った観光振興ブームの火付け役だった」と回顧。「認定は当時のブームや嘉兵衛の業績にスポットが当たる絶好の機会。淡路島も北前船の横のつながりに食い込んでいきたい」と話していた。

〈荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間~北前船寄港地・船主集落~〉

 江戸中期-明治期に大阪と北海道を結んだ商船「北前船」は巨万の富を生み、各地に繁栄をもたらした。日本海沿岸の寄港地・船主集落には、今も広大な商家や豪壮な屋敷が並び、社寺には船の絵馬や模型が残るなど独特の町並みが息づく-とのストーリー。北海道から福井県までの7道県11市町が申請した。兵庫県内には北前船ゆかりの地が多く(地図(1)~(8))観光振興や申請の追加などに期待する声が上がる。

■銀の馬車道・鉱石の道 逃すな好機、次の手続々

▼資料研究一層深めたい おおや振興公社社長の和田祐之さん(60)

 地域住民で運営する養父市大屋町明延の「一円電車」体験乗車と明延鉱山の坑道見学に、大型連休の5日間で2千人以上が訪れました。今後も日本遺産認定の効果で鉱山遺構の価値は高まっていくでしょう。資料の研究も深め、体験できる形で伝えていきたい。明延の周辺にはスキー場やアート施設もあり施設間で連携した観光振興もしていく予定です。認定を追い風に、若い人が働く場をつくれれば。

▼地域愛伝えて劇団10年 NPO法人・姫路コンベンションサポート理事長の玉田恵美さん(47)

 馬車道沿線の公募市民らによる「銀の馬車道劇団」を主宰して10年。認定は節目に花を添えるうれしいニュース。劇団は、馬車道完成までの物語を公演することで故郷への愛着や誇りを育み、地元を盛り上げてきました。人づくり、まちづくりの取り組みが発信され、他地域にも広がることを望みます。馬車道の魅力を伝えられる市民がさらに増える契機にもなってほしい。

▼記念館の活性化に期待 甲社宅運営委員会会長の宇治紘三さん(74)

 生野鉱山の職員宿舎を改修した甲社宅(こうしゃたく)・志村喬(たかし)記念館(朝来市生野町口銀谷(くちがなや))の来館者は昨年度、初めて1万人を突破しましたが、今年の大型連休はさらに昨年の1.5倍の814人が訪れました。日本遺産認定が一層の知名度アップにつながれば。ぜひ時間を取って多くの人に来てほしい。生野の誇りである俳優、志村喬さんの話をはじめ、きっと満足してもらえるはずです。

▼神子畑の特色生かして 神子畑区長、神子畑鉱石の道推進協議会会長の山内隆治郎さん(73)

 朝来市佐嚢(さのう)の神子畑(みこばた)区は、かつて世界的に知られた神子畑選鉱場跡、全鋳鉄製で国内最古の神子畑鋳鉄橋などが残っています。選鉱場跡は立ち入れませんが、訪れた人はその規模に圧倒されます。各地区独自、神子畑なら神子畑の特色を生かして観光につなげることを考えていくべきです。運営を担う後継者育成を含め、近隣地区と一緒に盛り上げたい。

 【播但貫く、銀の馬車道 鉱石の道 ~資源大国日本の記憶をたどる73kmの轍(わだち)~】

 明治期に築かれた産業道路を軸に、起点の飾磨港(姫路市)から南但馬の鉱山群へ向かう旅仕立ての物語。中継点だった宿場町に独特の景観が残る鉱山町、暗く冷涼な坑道。「73キロの轍をたどることは、先人の国際性と革新の気質に触れ、金・銀・銅を求めて行き交う人の交流から生まれた多彩な生活と出合いが脈々と現代に息づいていることを体感する旅」と表現した。

2017/5/31
 

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