
イラスト・木皿泉
私は物に固執するタイプではないと思っていた。買い物は好きだが、買った物は大事にしないし、すぐ人にあげてしまう。そしてそのことも忘れてしまう。
ところがである。私の心の中は自分が思っているほど簡単なものではなかった。われわれも老年期に入ったことだし、いろいろ整理しようと思い立ち、まずこのハンパない量の本を何とかしようと思った。ところが、これがいざとなるとなかなか捨てられないのである。仕事のときにさほど役立たないといえばそうだし、かといって全く使わないわけではない。何かをペラペラめくっていて、お話をひとつ無理やりひねり出すこともあった。その何かは、その時の気分によるものなので、何がいるものでいらないものなのかなんて私には決めようがない。で、結局保留しようかという話になってしまう。今まで、その繰り返しだった。
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