
撮影・木皿泉
大学で一回限りの授業をした。作家の仕事について語る、というものだが、学生さんたちがマイナーな脚本家である私たちの名前を知るはずもない。そんな知らないオバサンの話など、面白いわけもない。ちょうど真ん中に座った学生は、つっぷしたまま一度も顔を上げなかった。90分、ずっとである。人が話している時に、そんなリアクションは初めてだったので、少々面食らってしまった。つまらなければ出てゆけばいいのに、と思った。
しかし、よくよく考えてみれば、みんな、単位が欲しくて来ているのだ。私の話を聞きたくて来ているわけではないのだった。そこまで考えて、そうだ、自分の若い頃もそうだったよなぁと思い出した。居たくもない場所に居続けなくてはならない、だるかった高校時代が、突然リアルによみがえった。高校生のドラマを書きながら、私は、ずいぶん長い間、本物の若者に会っていなかったようだ。
この記事は会員限定です。新聞購読者は会員登録だけで続きをお読みいただけます。