
撮影・木皿泉
子供の頃は冷や麦をよく食べた。1束に数本だけピンクや緑の麺が交じっていた。それを妹と取り合うようにして食べるのだが、何しろ数本しかないので、いつもケンカになる。勝った者だけが食べられるということもあって、色のついた冷や麦はうまいもんだと、ずっと思い込んでいた。が、ある日、子供の私はふと気づいてしまった。これは色がついているだけでフツーの味ではないかと。そう思って食べると、さほどうまくなく、私はガクゼンとした。
ダンナは一人っ子だったので、そんな争いはなく、色つきの冷や麦は食べ放題だったそうである。それより、彼の場合は、自分が眠ってしまった後に大人たちが何やら食べているのが気になってしかたなかったという。両親に祖父母、それに叔母さんと大人ばかりの家族で、夜に何やら食べている。ワイワイ楽しそうでうらやましい。自分も昼にもらった饅(まん)頭(じゅう)を引き出しにしまって、夜に起き出してそっと食べたが、あんまりうまくなかったそうである。
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