
撮影・木皿泉
全豪オープンテニスの決勝戦で大坂なおみが泣いた。勝つのは当たり前だと誰もが思ったシーンで、敵に得点がどんどん入ってゆく。大坂なおみは自分のふがいなさに押しつぶされていた。泣きたい気持ちはよくわかる。でも、ここで泣いてしまうと、マイナスの気持ちに支配されてしまわないだろうか。いったんそうなると、人の心はなかなか復活できない。下手すると体がまったく動かなくなってしまうのを私は知っている。
不当だと思われる出来事があって、私はそのことで頭がいっぱいだった。その時、突然、歩いている私の前に車が歩道に乗り上げてきた。駐車するためである。私の目の前で車は止まり、人が降りて行った。行く手をさえぎられた私は、自分で自分をコントロールできなくなってしまった。体が一歩も動けなくなってしまったのである。歩道をいったん降りて車を避けて行けばすむ話なのに、それができない。私は怒っていたのだと思う。全身に走り抜けたのは悲しみだったけど、よく考えるとその根本は怒りそのものだった。なぜ、私にばかり不当なことが起こり続けるのだろう。運転手が戻ってきて、車を動かしてくれて、ようやく私は動くことができた。車に戻った人は、さぞかし気持ち悪かっただろうと思う。5分ほどの間、私はその人の車の前でじっと立っていたのだから。
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