
撮影・木皿泉
ダンナさんは、ときどき、「イムラデバツコ」という意味不明なコトバを口にする。子どものころ、目にものもらいができたとき、お祖母(ばあ)さんが、そう唱えながら、にぎりばさみで目を切る真似をするそうだ。そう言われた方は「もう出ません、もう出ません」と答え、ものもらいは治るという。誰にも見られてはいけないらしく、2人きりの暗い部屋で、真面目な顔をしたお祖母さんが、にぎりばさみを持って迫ってくるのは、おかしいような、怖いようなものだったらしい。
訪問看護師さんが、うちにもそんなのがありました、と言う。やっぱり、誰にも見られてはいけないらしく、1人でこっそり川に行き、自分の年齢の数だけの小豆を、1粒ずつ目に当てては、「バーカメッパオチレ」と言って川に流すのだそうだ。それで治りましたか?と聞くと、治りましたねぇと懐かしそうに言う。
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