
撮影・木皿泉
昔、両親と私と妹一家とで淡路島へ遊びに行ったことがある。子どもを含めて8人と、大所帯の移動だった。ちょうど父の誕生日だったので、旅館にケーキを持ち込み、みんなでお祝いすることになった。ケーキにローソクを立て、さぁという時、誰もライターを持っていないことに気がついた。父も義弟も、タバコをやめていたのだ。ローソクに火がつかないことに、全員が失望した。諦めきれず、あるわけがないのに部屋中を探したりした。火をつけたとしても、すぐに吹き消してしまうのに、みんな真剣だった。結局、どうなってしまったのか忘れてしまったが、あの時、なぜみんな、あんなにローソクの火が見たかったのだろう。
誰が言ったのか忘れたが、人が食後に暖炉の火を囲むのは、チロチロと動く炎を見たいからだそうだ。暖炉がなくなってしまったので、炎の代わりにテレビを見るようになったと、その人は言う。普及し始めたテレビに熱狂する人々への皮肉だと思うが、ほんの数十年前までは、家族は火を見て夜を過ごしていたのかと驚く。
この記事は会員限定です。新聞購読者は会員登録だけで続きをお読みいただけます。