
撮影・木皿泉
ダンナが入院しているとき、意識がまだ不明瞭だった彼には、病室がオーストリア風の木でできた部屋に見えていたそうである。そこには、5センチほどの小さな男の子がいるらしく、彼のことをピータンと呼んでいた。ピータンは、まだ思うように目を開けることができなかったダンナの唯一の友人のようだった。私のことをピータンだと思い込んで、しゃべっているときもあった。
そのころ、毎日同じカバンを持って病院に行っていた。夜、ぐったりとなった私は、それを床に放り投げ、朝になると、拾い上げて食べかけのおにぎりやパンを詰め込んででかける。ある日、そのくたびれたカバンを見て驚いた。カエルの模様の下に小さくピータンとプリントされていたからだ。
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