エッセー・評論

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撮影・木皿泉

撮影・木皿泉

 家を出て、しばらくして腕時計をしていないことに気づいた。ケータイも持っておらず、そうなると、時間がわからないということがとても不安になる。いっそ時計を買ってしまおうかと考える。そういえばこのエッセーをまとめた単行本『木皿食堂』が文庫(双葉社、700円)になって、先月から本屋に並んでいる。その印税のことを思って、気持ちが少し大きくなる。

 店に入って目についたのは、塩化ビニールのような材質で文字盤も針もない、グレーのリストバンドのようなもの。横にあるボタンを押すと、のっぺりしたグレーの表面に時間を指した文字盤が浮かび上がる。浮かび上がったと思ったら、10秒もたたないうちにそれは消え、元の素っ気ない塩化ビニールに戻ってしまう。そこにとどまっていないのがいい。時間とは、本来そういうものだろう。私たちは平気で、いついつまでにこれをしてくださいなどと言ったりするが、そのいついつまでが本当にあるのか、誰も保証できない。

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2016/6/5
 

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