本格的に寒くなってきました。布団から出るのも、服を着替えるのも、学校へ行くのも、すべてが億劫(おっくう)な季節です。そんな中での卒業論文執筆! 今、大学4回生のみなさんは、まさに必死のぱっちで頑張っていることでしょう。そんな中、まだエンジンがかかっていない学生さんもいると思います。そんなイマイチやる気が出ない学生さんに、まずはやる気についてのお話から!
「書くぞ、と気合を入れて机に向かうことは、この頃は少なくなりました。やる気をつくってから書くのは、時間がかかってしまうんですね。そうではなくて、机に向かって書くという行為によって、やる気が湧いてくる」(夢枕獏)
卒論を書く学生さんに、毎年言っていることは、「やる気はやらないと出ない」ということです。いつも言っているように書いてみますね(大阪弁丸出しですが!)。
「やる気は、やらへんかったら出えへんで。やる気は、やってるうちに湧いてくるから!」
「もう1回言うで。やる気はやらへんかったら出えへんからな。まずはやること! 待っててもやる気なんか出えへんで。やろ! 書こ!」
その他にはこんなことも。
「いっぱい書いて、たくさん削ろ!」
小説家の森博嗣さんは、ブラッシュアップすることを「犠牲」という言葉を用いて以下のように説明しています。
「新しいものを作りたかったら、今あるものに何を加えようか、と考えていては駄目だ。そうではなく、今あるものの何を犠牲にするか、何をやらないでおくか、を考えた方が良い」
大切なのは、書いて削って磨くこと。論文でも小説でも「書くこと」の共通点はブラッシュアップすることだと思います。そして何が余計なことかどうかも、とにかく書かないことにはわかりません。
「書こ、まず書こ!」
書くことは大変なことです。暗闇から飛躍するようなこと、この世に新たな世界を創り出すようなこと…。
最初に引用した小説家の夢枕獏さんはこんなこともおっしゃっています。
「執筆は孤独な作業です。くじけそうなときに最後に自分を支えるのは、ここまでやったという小さな積み重ねです。自分はここまで調べたんだ、ここまで考えたんだという、細部の積み重ねが、自分を支えてくれるんです」
インプットなしではアウトプットできません。これまでの積み重ねの集大成が卒業論文なのです。
* *
先日、ゼミ生のKくんと連絡が取れなくなりました。LINEの既読がつかなくなってから数日後、電話もつながらない…心配になった私は親御さんに連絡をし、ひとまず無事かどうかを尋ねました。
数時間後、Kくんから連絡があり、無事だったことと、卒論から逃げていたことへの謝罪がありました。私は怒るどころか、まず無事だったことに安堵(あんど)しました。Kくんがずっと走り続けていたことを知っていたからです。
Kくんは、「常に考えているけど書けない」という状態が続いていました。適当にコピー&ペーストで済ませるのではなく、卒業論文に真剣に向き合ったからこそ逃げ出してしまったんだなあと。
でもはっきりと言えるのは「書いた方が楽になる」ということ。「やらなきゃ」と思っていることから逃げている時が一番しんどいんです。
告白すると、今回、ギリギリのタイミングでこの原稿を書いています。「やらなきゃ」と思いながら、「書けない」ことにずっと苦しんでいたのは私も同じでした。だから今回「書けないこと」をテーマにしてみてはどうだろうと思ったのです。
ひとまず私は、無事に原稿を書き終えることができそうです。明日は朝からKくんの卒論指導をする予定です。先生の役割って「伴走」なんだなと、今しみじみ実感しています。卒論提出まであと少し! 最後まで一緒に走ろうと思います。
【金益見(きむ・いっきょん)】神戸学院大人文学部講師。博士(人間文化学)。1979年大阪府生まれ。大学院在学中に刊行した「ラブホテル進化論」で橋本峰雄賞を受賞。漫画家にインタビューした「贈りもの」、「やる気とか元気がでるえんぴつポスター」など著書多数。
2019/12/11