エッセー・評論

  • 印刷
イラスト・金益見
拡大

イラスト・金益見

イラスト・金益見

イラスト・金益見

 アスファルトも溶けてしまいそうな暑い午後、「カレーでも食べたいな…」とダラダラ歩いていたら、“じぶん史上、最高の夏”と書かれた、高校野球ののぼりを見かけました。

 その時私は、そういえばこのところ「最高」という言葉を気温にしか付けていなかったなぁ…と反省しました。そして決心したのです。

 今年の夏を“自分史上、最高の夏”にしよう!

   * * *

 一年で一番力強い季節、それが夏ではないでしょうか。夏には、何かを始めれば、ダイナミックな展開がありそうな迫力があります。その秘密は、色の濃さにあるのかもしれないし(影も空も木々もくっきりと濃い!)、音の強さにあるのかもしれません(すべての音をかき消すようなセミの声!)。

 学生時代、私の夏は毎年最高でした。私にとっての「夏休み」の枕詞(まくらことば)は「せっかくの」で、後に続く言葉は「もったいない」。つまり、ダラダラし始めると、「せっかくの夏休みがもったいない!」と外に飛び出して、楽しいことに首を突っ込む日々でした。

 そんな、学生時代の夏休みにやっておいてよかったなと思うことは、「旅」です。海外でも国内でも旅は夏の醍醐味(だいごみ)のひとつでした。

 シューカツを終えたゼミ生が、内定先の企業の方に「就職するまでにやっておいたほうがいいことは?」と尋ねたときにも“夏休みの旅”を勧められたそうです。

 「社会人になったら時間がなくなるから、学生のうちに長期の休みを利用して旅行に行っておいたほうがいいよ」

 「悔いが残らないように、今のうちに思う存分遊んだほうがいいよ」

 なるほど、同じことを言われたんだな…と思いながらも私はその言葉に違和感を持ちました。今回の原稿で書きたかったことと言葉は同じなのですが、根本がずれていたからです。

 夏休みの旅はたしかに素晴らしいです。しかし、私が学生さんに伝えたいことは「学生時代にしかできないこと」ではなく、「大人になってからも素晴らしい日々を過ごすために、学生時代にやっておくといいこと」なのです。「あの頃はよかった」なんて振り返ってばかりの未来にしないために、私は「旅」をオススメします。

 夏休みに旅に出てみましょう。そこで、スマホやテレビなどで四角く切り取られていない景色に触れてください。

 インスタグラムにあげる写真を撮るための旅ではなく、自分の視野を広げるための旅。

 嗅覚や聴覚に、言葉にできない余韻や音を残す旅。

 舌に新しい味わいを刻んでいくような旅。

 自分の内側に素敵なものを積んでいくように丁寧に旅してみてください。すると、その旅の発見は、これからの日常を広げてくれるヒントになります。旅で手に入れた新しいものも懐かしいものも、帰ってきてからの日々を活(い)かす材料になります。

 なかには、インターンシップやクラブ活動を優先させたい人もいるでしょう。そんな学生さんには旅するように夏を過ごしてみることをお勧めします。

 旅先じゃなくても、いつもの道を歩くときに「今、地球の上を歩いている!」と思うだけで、歩の進め方が変わります。夏は「輝く日々を連れてきてくれる力がある」と信じること。その気持ちを持って、とにかく外に出かけること。すると、姿勢が伸びます。景色の見え方が変わります。立ち寄る場所も増えるかもしれません。それは輝く日々につながっていくはずです。

     * * *

 冒頭で宣言した通り、私は今年の夏を“自分史上、最高の夏”にします。でもよく考えると「今年の夏も」でした(つまり、最高記録を更新するということ!)。

 そのように過ごすだけで、そのようになっていく…そんな力を夏は持っていると、私は信じています。

【金益見(きむ いっきょん)】神戸学院大人文学部講師。博士(人間文化学)。1979年大阪府生まれ。大学院在学中に刊行した「ラブホテル進化論」で橋本峰雄賞を受賞。漫画家にインタビューした「贈りもの」、「やる気とか元気がでるえんぴつポスター」など著書多数。

2017/8/9
 

天気(9月7日)

  • 34℃
  • 27℃
  • 20%

  • 36℃
  • 24℃
  • 40%

  • 35℃
  • 26℃
  • 20%

  • 35℃
  • 25℃
  • 30%

お知らせ