もうすぐ、金ゼミ2期生が卒業します。2期生は1期のゼミ生と比べて、よく言えば“個が立っている”、忌憚(きたん)なく言えば“みんなバラバラ”でした。
中学教師を目指しているゼミ長のこじはるくんは、ゼミ生同士があまり仲良くないことを気にして、毎回みんなに声がけするなどがんばっていましたが、私は「ゼミ長はえらいなあ」と尊敬しながらも、「でも、このままもいいけどな」と思っていました。
今、ふとスマートフォンを取り出してLINE(ライン)を開けたら、私の「友だち」は386人登録されています。しかし全員が友達というわけではなく、ほとんどが知り合いです(LINEでつながる必要があった人がそれだけいたというだけです)。
クラスメートも、ゼミ生たちも、たまたまそこで一緒になった同年代の人たちです。そこで仲良くなる人がいればラッキーだし、そうでなくてもそれなりに得られるものがあります。なぜなら、学校は勉強をしたり友達を作ったりするためだけの場所ではないからです。
教室は、赤の他人とそれなりにやっていくための力を付ける場所。はっきり言うと、他人に過度な期待を抱くことなく、逆に絶望することもなく、なんとか一緒にやっていくための心持ちを身に付ける場所でもあると思うのです。
うちのゼミ生の素晴らしいところは、グループワークの際に、誰が誰と組んでもそれなりにうまくいっていたところです。つまり、共働する時に「仲良し度」が全く影響しなかったところに、彼、彼女らの素晴らしさがあります。
それでは去年と同様に、これから社会に出ていく彼らに伝えたいことをここに書きたいと思います。
* * *
金ゼミ2期生のみなさんは、見事にみんなバラバラで素晴らしかったです。
なぜみなさんがここまでバラバラだったのかということを改めて考えてみると、卒業論文のテーマにそのヒントがありました。みなさんが選んだテーマはまるでバラバラです。恋愛ドラマ、オンラインゲーム、お守り、ガールズバー、百合(ゆり)、性的マイノリティー、売買春、大学駅伝、韓流、ダークヒーロー、音楽、ペットまで(卒論指導、大変でした…)。それは、好きなものや関心がそれぞれ異なっており、一人一人がそれを貫いていたからだと思います。
みなさんは「誰がなんと言おうとこれが好き!」というものを持っていました。そしてそれを誰にも押し付けなかった。また、その「誰かが好きなもの」に対して優劣を付けなかった。
例えばアイドル好きの学生と、ブルースやロックが好きな学生が、どちらかをばかにしたり、上から目線で何かを言ったりすることなく、普通に同じ教室で過ごして、互いの「好き」を尊重していたように思います。
みなさんの多くは企業に就職します。そして会社は友達を作る場所ではありません。何らかの目標を達成するために共働する場所です。そういう意味ではみなさんはもうバッチリなのではないでしょうか。
それと、もうひとつ伝えたいことがあります。それは、これからみなさんはギフトする側に回るということです。
みなさんが今まで愛してきたもの(音楽や仮面ライダー、アニメなど)は、それが子どものために作られたものであっても、子どもが作っているわけではないということ。大人が力を合わせて作り出してきたものをみなさんは受け取ってきたのです。それらがみなさんのバラバラで素敵(すてき)な感性を育ててくれました。次はみなさんが届ける側に回る番です。
卒業おめでとう! ようこそ贈る者の世界へ。
【金益見(きむ・いっきょん)】神戸学院大人文学部講師。博士(人間文化学)。1979年大阪府生まれ。大学院在学中に刊行した「ラブホテル進化論」で橋本峰雄賞を受賞。漫画家にインタビューした「贈りもの」、「やる気とか元気がでるえんぴつポスター」など著書多数。
2019/3/13