エッセー・評論

  • 印刷
イラスト・金益見
拡大

イラスト・金益見

イラスト・金益見

イラスト・金益見

 「高校や大学でできた友人は“一生の友達”になるから大切にしなさい」と、親や先生に言われたことがある人はいますか?

 大人になった今、改めて理由を考えてみると「利害関係がない時代に、共に青春を過ごした仲間こそ一生もの」だということなのかもしれません。私も例に漏れず、大学に入学した時は「“一生の友達”をつくりたい!」と意気込んでいました。

 その結果どうなったのか…先に答えを書いてしまうと、私が最初に出会ったのは“一生の友達”ではなく“友達がいなくてもひとりでなんでもできる自分”でした。

 大学ではじめて「なんでもかんでも誰かと一緒にしなくてもいいという自由!」に目覚めたのです(高校生時代はトイレも友達と一緒に行くという変な習慣があったので、その解放感といったら!)。

 小中高では、入学や卒業、受験など、ほとんどのビッグイベントがみんな同じ時期にやってきます。でも社会に出ると、出会いや別れ、結婚や離婚、出産や転職など、人生において重要な出来事を経験する人もしない人もいるし、そのタイミングもそれぞれ違います。

 そういう意味では、小中高時代と社会人の間の時期でもある大学時代は、みんなと一緒にいることも、ひとりでいることも自分で選ぶことができるという、一番自由な時期なのかもしれません。

 例えばゼミひとつとっても、「飲み会や旅行などの交流が頻繁に行われるゼミ」もあれば、「みんな沈んでいるから誰ひとり浮かないという、いい意味で全員が孤立しているゼミ」もあります。

 また、興味のある科目を選んで、自分で時間割を組めるというのも大学の魅力のひとつだと思います。

 当時の私は、憧れの先輩と同じ科目をこっそり履修したり、図書館で自分だけの特等席を見つけたり、ひとりで映画を観(み)に行ったり、空き時間にお弁当を食べ、おやつがわりに学食でうどんを食べるという(自分のペースで好きなものを食べられる解放感といったら!)ソロで楽しむ大学生活を満喫していました。

 そして、そんな私に“一生の友達”ができたのは、大学時代ではなく、30代です。

 大人になってから、新聞記者や研究者、漫画家さんなど、年齢も職業もバラバラだけど、一生仲良くしたいと思える素晴らしい友人に巡り逢(あ)えました。

 なかでも、出会ったその日に意気投合した春画研究者の石上阿希さんとは、昔愛読していた雑誌が同じだったことで盛り上がりました。その後、研究テーマに対する想(おも)いを熱く語り合い、一気に仲良くなったのです。

 私たちは同じ教室で学んだこともなければ、同じクラブの仲間でもありません。でも、お互いがそれぞれ好きなことをしていくなかで、つながったのです。

 ちなみに、私たちが当時愛読していたのは「サスペンス&ホラー」という漫画雑誌で、その頃小学生だった私は、周りが「コロコロコミック」や「なかよし」を読んでいるなか、誰とも話が合いませんでした…それが20年の時を経て、夏休みの夜に怖い漫画を読むドキドキ感を共有できたのです!

 私たちは、それぞれがひとりぼっちだった庭先の縁側で、布団のなかで、確かに同じ時間を過ごしてきたのだと…。だから石上さんと会うといつも、小学生だった頃の自分に「そのままでいいんだよ」と伝えてあげたくなります。

 友達を無理やりつくる必要はないし、キャプテン翼くんのように「ボールが友達!」でも構わないと、私は思います。

 もし、今大学で「思っていたように友達ができない」と悩んでいる学生さんがいれば、私は「“一生の友達”はいつだってできる!」と伝えたいのです。

 だって、あなたがひとりで過ごしている時間が、今この瞬間にも、どこかの誰かとつながっていたりするのですから。

【金益見(きむ・いっきょん)】神戸学院大人文学部講師。博士(人間文化学)。1979年大阪府生まれ。大学院在学中に刊行した「ラブホテル進化論」で橋本峰雄賞を受賞。漫画家にインタビューした「贈りもの」、「やる気とか元気がでるえんぴつポスター」など著書多数。

2017/7/12
 

天気(9月7日)

  • 34℃
  • 27℃
  • 20%

  • 36℃
  • 24℃
  • 40%

  • 35℃
  • 26℃
  • 20%

  • 35℃
  • 25℃
  • 30%

お知らせ