研究室は、たまに「悩み相談室」になることがあります。
私は心理学者でもカウンセラーでもないので、大抵はうんうんと話を聞くか、おすすめの本を貸すぐらいしかできないのですが、たまに「先生にも悩みはありますか?」と聞かれることがあります。そこで私が学生に悩みを相談することはあまりないのですが(笑)、そういうときは悩みを解決するための自分なりの方法をお話ししています。
* * *
深く暗い森の中、私はひとり佇(たたず)んでいました。
今夜は動かずに夜が明けるまで待つか、闇雲(やみくも)でもいいから前に進むか…。
じっとしているのが苦手な私はひとまず進みました…が、さすが闇雲です、どこにも辿(たど)り着けません。
ヘトヘトになって、来た道を引き返そうとすると、道中で親切な人に出会いました。
その人は懐中電灯のようなものを貸してくれて、この先に行きたいならどこに光をあてて進んでいけばいいかを教えてくれたのです。
そうして、私は再び歩き始めました。今度は闇雲ではなく、ひとつひとつの闇を小さな灯(あか)りで照らしながら。
…すると、向こうの方に光が見えてきました。
* * *
森を抜けるまでの道中は、問題を解決するまでの過程の比喩(ひゆ)です(いきなり森が出てきてびっくりした人もいるかもしれませんが)。
ある時期私は、到底自分で解決できるとは思えない悩みを抱えていました。そんなときたまたま会った親切な人が、相談に乗ってくれたのです。その人は、私の悩みの問題点をひとつひとつ明らかにしてくれました。
そのとき気づいたのが、悩んでいるときは絡まった糸を丁寧にほぐしていくような作業が、実はとっても大切だということでした。頭の中がいっぱいいっぱいになるような悩みは、複数の事情が絡まりあっていることが多いのです。そこで、嘆いているだけではなんの解決にもなりません。悩んでばかりのどうしようもない時間が続くと、やる気や元気が奪われて、しまいに立ち上がれなくなることもあります。
ひとまず「悩み」を「嘆き」につなげるのではなく、「問題」として考えてみること。大問題ではなく、小問題に分けてひとつひとつの問題に小さな答えを出していくこと。
答えは、大正解(◎)じゃなく、今のところの正解(○)や納得解(△)でも構いません。テストの解答はひとつしかありませんが、現実に起こる問題の答えは複数存在していたり、その後の行動によって正解に変えることもできたりします。
また、問題について考えるときには“誰か”のせいにしないということも重要です。人のせいにしたままでは、その“誰か”が改心したり、改善したりしてくれないと問題が解決しないからです。
人は動かせません。自分の意思で動かせるのは自分だけです。つまり、自分の行動や言動は今この瞬間にも変えることができますが、相手を変えることはできないのです(精いっぱいやって影響を与えるくらいはできるかもしれませんが、その影響も、相手が受けとってくれないと与えることはできません)。
相手が変わるのを待ってもいつまでかかるかわかりません。だから“誰か”のせいにするのではなく、自分に何が足りなかったのかを考えてみる(自己否定ではなく、批判的かつ客観的に自分を見つめてみましょう)。
…すると、今すぐに自分にできることがいくつか見つかるはずです(行動までいかなくても、心の持ちようとか)。
それを早速やってみると、ゆっくりと道が開けて、少しずつ楽になってきます。
この方法は、仕事や恋愛、家族関係の悩みなど、いろんな問題に対応できるので、ピンときた人はぜひ試してみてください。
でもまあ…一番いいのはひとまず食べて寝ることかな。
【金益見(きむ・いっきょん)】神戸学院大人文学部講師。博士(人間文化学)。1979年大阪府生まれ。大学院在学中に刊行した「ラブホテル進化論」で橋本峰雄賞を受賞。漫画家にインタビューした「贈りもの」、「やる気とか元気がでるえんぴつポスター」など著書多数。
2018/6/13