「最近好きな人ができた」という女子学生がこんな悩みを打ち明けてくれました。
「シューカツの時に化粧はマナーとか言われたらムカつくし、靴擦れするパンプスを履くのも嫌で、共感し合える仲間と共に声を上げることで社会を変えたいと思っている自分がいるのに、気になっている男の子とデートする時には自ら率先して男の人が好きそうな格好をしてしまうんです…先生どう思いますか?」
私も「初デートは女子アナスタイル」時代があったので(…とイキがって過去形で書きましたが、今も恋愛に発展しそうな人と会う時には男性ウケしそうな服装を選んでいる自分もやっぱりまだいて、そんな自分があんまり好きではないので)悩みに答えるというより、共感しながら話し合いました。
そこでわかったことは、自分の好きなスタイルではなく、相手の好きそうな服装を選ぶのは、自信のなさからくる自身の補強と相手へのサービスではないかということ。つまり、「初デートは女子アナスタイル問題」の根底にあるのは恐れと媚(こ)びのようなもので、「だから自分のことをカッコ悪く思っちゃうんだよなあ…」と2人でため息をついたわけです。
学生とのやりとりをこのエッセーを書いている途中で、以前読んだ東洋経済オンラインの対談を思い出しました。「女性には『美人』と『美人予備軍』しかいない」というタイトルで歌手の野宮真貴さんと、コラムニストのジェーン・スーさんが対談をした記事です。
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野宮 10~20代は特に、結婚をゴールにすると、モテファッションやモテメイクになりがちですよね。でも、私の場合は、聴く音楽によって服装は変わっても、付き合う男に合わせてファッションが変わったことはなかったな。
スー モテファッションにトライしたことはありますか?
野宮 なかったです。服のほうが好きでした。
私はこの、「服のほうが好きでした」という野宮さんの言葉を初めて読んだとき、とてもしびれました。
そして改めて読み返して、「初デートは女子アナスタイル問題でちまちま悩んでいる自分って小っせーな」と思いました。結局自分は、好きな服と印象のどちらを取るかを悩んでしまう程度にしかファッションを好きではなかったのです…。
「世間のモテという尺度に惑わされなかったのはなぜ?」というスーさんの質問に、野宮さんはこう答えます。
「自分の好きなことを追求していたからじゃないかな。万人にモテてもしょうがないもの。やっぱり、話が合う人と仲良くなりたいし。高校生のとき、ロックバンドのKISSを好きになってコピーバンドをやったんです。衣装を自分でつくって、メイクもヘアも真似(まね)して。まず、普通の男の子にはモテないですよね(笑)」
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ファッションは時に、リトマス試験紙にもなります。相手の反応で、その人のことが少しわかる…そういう意味では、初デートこそ自分の好きな服装で行く方がいいのかもしれません。自分が違和感を感じる服装で相手に気に入られても、その先ずっとそのスタイルを続けるのは疲れてしまいます。
シューカツやデートで、常識とされている服装や、一般的にウケそうな格好を選ぶことは否定しません。でもそこに違和感を感じている自分がいるのなら、もう少しその違和感に向き合ってみてもいいのではないでしょうか。譲れるものと譲れないもの…自分が本当に好きなものは何か…せっかくの恋、相手だけではなく、自分とも向き合ってみるいい機会です。
ちなみに、自分が次に初デートする機会があれば、阪神タイガースのTシャツでも着て行こうかな!
【金益見(きむ・いっきょん)】神戸学院大人文学部講師。博士(人間文化学)。1979年大阪府生まれ。大学院在学中に刊行した「ラブホテル進化論」で橋本峰雄賞を受賞。漫画家にインタビューした「贈りもの」、「やる気とか元気がでるえんぴつポスター」など著書多数。
2019/7/10