先日、初めてリアルな場所で個人的に誹謗(ひぼう)中傷されることがあり、大変ショックを受けました。
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私は、在日コリアンです。マイノリティーという立場で、いわゆるキワモノ研究といわれる題材で本を出版し(初めて出した本は「ラブホテル進化論」、タイトルは刺激的ですが、真面目な日本文化史です)、ネット上で、ものすごい誹謗中傷を受けました。
一時は心を病み、外に出られなくなった時期もありましたが、なんとか立ち直れたのは、毎日のようにメールで送られてくる酷(ひど)い言葉に翻弄(ほんろう)されない、いくつかの方法を編み出したからです。
まずは、「傷つく自分を許さない」という方法。
どんな酷い言葉を受けても、自分を自分で「こんなことで傷つく自分はイケてない!」と鼓舞する方法です。でもこれは、自分に自信があるときはいいのですが、そうでないときは傷つく自分にたいして「所詮(しょせん)自分なんだから仕方ない」と思ってしまうので、万能ではありませんでした。
続いて、「それはあなただ」と、ブーメランのごとく、受けた言葉を相手に返す方法。
「悪人の死に際は往々にしてみっともない」という美輪明宏さんの言葉を励みに、「自分に投げかけられた酷い言葉は、私からではなく、そもそもあなたから発せられたものなので、あなたが生んだ言葉なのですよ。それは私に放たれただけで、あなた自身なのでは?」と突き返す方法です。
でも、この方法も完璧ではありません。その人が痛い目にあうまで見つめられる根気も時間もありませんから、スッキリ解決する現場には立ち会えないことがほとんどです。
続いて、定番ですが、無視する方法。「匿名で書かれた意見なんて、無視しなさい。名前を名乗らないってこと自体が、後ろめたい証拠なのだから。そんな意見に耳を貸すほど、あなたは暇じゃないはず。そもそも名乗らないのは、いないも同じ!」
これは、母の助言で、今でも私を守ってくれている力強い言葉です。
こうしたいくつかの方法を駆使しながら、誹謗中傷を乗り切ってきた私ですが、冒頭にあげたように、最近、ネット上ではなくリアルに攻撃されることがあり、とても落ち込みました。
そんな中、いっきょん先生は学生さんに相談したのです(私は、世間では「先生」として鳴らしていますが、放課後を告げるチャイムが鳴った後は、ただの女性です。子どもや家庭といった確固たる守るべきものも抱えておらず、日々起きた出来事に翻弄されまくりの、ちっぽけな存在です。したがって、時に学生さんの方がよっぽど力強く人生を歩んでいたりします)。
【学生さんの意見①】
明石家さんまさんは普段怒らないらしいのですが、それでも怒りそうになったら「こいつアホやねんな」と思うそうです。人を怒らせる奴(やつ)はアホだと言ってました。
【学生さんの意見②】
私もバイトなどでブスとか酷いことを言われることがありますが、相手を「狭い情報でしか人を判断できないかわいそうな人」と思うようにしています。あと、店員という役割を徹底的に演じて、そういうお客さんにも笑顔で対応できた自分を肯定します!
【学生さんの意見③】
呼吸と一緒に相手の意見も一瞬自分の中に取り込んで、必要なければ二酸化炭素と一緒に吐き出します。
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ああ!学生さんありがとう! 誹謗中傷に対抗する(もしくは向き合わない)方法は、ダイエットと似ている気がします。SNSが浸透している今、どんな人でも酷い言葉を投げられる可能性があります。そんなときに、自分に合った方法を見つけることで、なんとか折り合いを付けられるのではないかと思うのです。
他人を変えることはできません。でも、自分を自分でなんとかすることはできます。さまざまなアドバイスの力で。今、すぐにでも。
苦しむ必要はないのです。楽になってください。今、すぐにでも。
【金益見(きむ・いっきょん)】神戸学院大人文学部講師。博士(人間文化学)。1979年大阪府生まれ。大学院在学中に刊行した「ラブホテル進化論」で橋本峰雄賞を受賞。漫画家にインタビューした「贈りもの」、「やる気とか元気がでるえんぴつポスター」など著書多数。
2017/12/13