コミュ力、女子力、語学力…人によって身につけたいと思う力はさまざまだと思います。では、「身につけたい力」ではなく、「身につけなければならない力」はどうでしょうか。
学生に「在学中に身につけなければいけない力って何ですか?」と質問されたときに、私は「メディアリテラシー力」と即答しました。メディアのなかから必要な情報を引き出し、その真偽を見抜き、活用する力のことです。
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皆さんは、情報をどのように収集していますか? 新聞? テレビ? インターネット? 現代では、ありとあらゆる情報を簡単に手に入れることができます。でも、だからこそ、それらを見極める力が今とても重要なのです。
近年「フィルターバブル」という言葉が誕生しました。インターネットで、利用者が好ましいと思う情報ばかりが選択的に提示されてしまう現象を表した言葉です。サーチエンジンなどの学習機能によって、利用者の望む情報が優先され、望まない情報から遠ざけられて、自身の作り出したフィルターで泡(バブル)のように包まれる…。
偏った情報だけではありません。さらに気をつけなければいけないのは、フェイクニュースのような嘘(うそ)の情報…インターネットには、嘘やデマが大量に出回っています。
それらに惑わされないように、私たちはどのようなことに注意を払えばいいのでしょうか。
まず、ネット上で話題になる情報が、正確な情報だとは限らないと認識すること。トップページにあがっているからとか、何万ビューとかいう数字に惑わされてはいけません。
インターネットでは、派手で刺激の強い情報が目立つ傾向にあります。善悪がハッキリした情報、怒りや不快感など、感情に訴えかける情報が話題になりやすいのです。そこでは、“正しい情報”よりも、極端な事例やわかりやすさが求められます。
そうして、「正確さ」ではなく「面白さ」が優先された情報がどんどん共有され、「事実と違っても」大勢が何の気なしに「いいね!」とクリックした情報が拡散されてしまうのです。
また、この「大勢が賛同している」という感覚は、差別的な発言を助長してしまうことがあります。これまで「表だって言えなかったこと」のハードルが「ネット上でなら」「みんなが言ってるから」とどんどん下がって、ついには、現実社会でヘイトスピーチを行う人も出てきました。
インターネット上の情報に触れるときには、話題に重点を置いているのか、正確さに重点を置いているのかを見極める視点を持つことが重要です。
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メディアリテラシー力と共に身につけるべき力があります。それは「自覚力」です。
私たちはネット社会において、受信者であり、発信者でもあります。
例えばあなたがツイッターのユーザーなら、よくわからない人が気分で垂れ流した情報をリツイートしてもいいのか否かを、その都度考える必要があります。あなたの発信が、デマ拡散につながり、大変な事態になってしまうこともありえるからです。
間違った情報を受け取るのは嫌だと思いながら、間違っているかもしれない情報を拡散させていないか。無自覚に不確かな情報を垂れ流しているのは、ひょっとしたら自分自身かもしれないことを常に頭の隅に置いておくこと。
情報だけでなく、すべてにあてはまる怖いことですが、やったことは必ず返ってきます。そして素敵(すてき)なことに、ギフトしたものも必ず返ってきます(往々にして自分には思いもよらない形で)。
ちゃんとした情報を受け取りたいなら、自らの発信に自覚を持つこと。まずはそこからです。
メディアリテラシー力と自覚力! 両方大切なのでぜひ身につけてください。
【金益見(きむ・いっきょん)】神戸学院大人文学部講師。博士(人間文化学)。1979年大阪府生まれ。大学院在学中に刊行した「ラブホテル進化論」で橋本峰雄賞を受賞。漫画家にインタビューした「贈りもの」、「やる気とか元気がでるえんぴつポスター」など著書多数。
2018/2/14