エッセー・評論

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イラスト・金益見
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イラスト・金益見

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 「先生、助けてください」

 授業中に携帯電話(スマホ)を触っていた学生を注意した時に言われた一言です。

 彼女は「本当は授業に集中したいと思ってるんです…」と続け、今LINE(ライン)の「ともだち」が千人を超えていること、1日にすごい数のやりとりをしなければいけないことなどを私に話してくれました。

 私には彼女が言い訳をしているようには聞こえませんでした。それよりも、こんなことになってしまってどうすればいいのかという混乱が強く伝わってきました。

 その時私は、スマホという存在について「便利」を超えた「脅威」を感じたのです。

 その後、モヤモヤした思いを抱えながら電車に乗っていると、まさしくその脅威を裏付けるような体験をしました。

     *  *  *

 その日はJR神戸線の普通電車に乗っていて、ちょうど須磨駅を越えたあたりでした。

 余談ですが、私はこの区間を通るときは新快速の方が早くても普通電車や快速に乗り換えることが多いです。電車が浜辺のすぐ近くを走ってくれるので、車窓いっぱいに広がる海を眺めるのが通勤中の楽しみのひとつなのです。

 その日も「今日の海はどんな表情を見せてくれるのか!」とワクワクしながら、海と対面できる山側の席に座りました。その時、衝撃の光景に目にしたのです。

 目の前に座っている人が全員スマホに夢中、私の両隣の人もスマホに夢中、ドアのすぐそばに立っている人も、向こうの席に座っている人も、とにかく車内の乗客全員が海を一切無視して、スマホに夢中だったのです。

 私は「海がスマホに負けた!」と思いました。まさに完敗! スマホの魅力と威力に白旗を挙げた瞬間でした。

   * * *

 朝、スマホで設定した時間にアラームが鳴る。メールをチェックする。スマホに入れた音楽を聞きながら支度をして出かける。駅のホームではスマホで電車の時間を調べ、車内では配信されてくるニュースを読む。そうして人差し指だけを巧みに動かす時間は午後になっても続きます。

 日頃当たり前のようにやっていることを振り返ってみると、私たちは随分スマホと共に日々を過ごしていることに気づきました。

 だから私は思い切って禁止することにしたのです。数年前から、授業中にスマホを触るどころか、机の上に出すことも一切禁止にしました。

 大学では自由に学んでほしいと思っているので、本当は禁止事項なんてつくりたくなかったのですが、スマホの力を痛感した私は、授業中だけでもこちら側の世界に戻ってきてほしいと思ったのです。彼らに四角く切り取られていない世界を見せたいと思ったのです。

 「90分、スマホの魅力から解放されよう!」

 そうやって理由をきちんと説明すると、ほとんどの学生が共感と理解を示してくれました。そして今では、授業への集中が増したと、うれしい感想をくれる学生もいます。

 ということで、今日は「授業中の携帯電話の使用について」をテーマに作った曲を紹介して終わります。もちろん、オリジナル曲です!

 「テバナセ」

つながってること

確認する音

メール受信音

本当のことかな?

ケータイは魅力的!

便利かつ魅惑的!

だけど使われてしまうと

君の「今」にとっては敵

確かめるのは不安だからだよな?

本当につながっているなら確認しなくてもいいんだぜ?

100人いるのは友達じゃないよな?

本当にかけがえないなら

増やさなくてもいいんだぜ?

ああ、君の「今」は今しかないのに

ああ、君の「今」を盗(と)る奴(やつ)を…今だ!

手放せ!

【金益見(きむ・いっきょん)】神戸学院大人文学部講師。博士(人間文化学)。1979年大阪府生まれ。大学院在学中に刊行した「ラブホテル進化論」で橋本峰雄賞を受賞。漫画家にインタビューした「贈りもの」、「やる気とか元気がでるえんぴつポスター」など著書多数。

2017/10/11
 

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