新緑が輝く季節、5月になりましたね! 私はぷるんと芽吹く新芽が大好きで、毎日のように見とれているのですが、世間は新芽よりも新元号に夢中のようです。
「令和」が発表されたとき、新元号選定に関する有識者を紹介した番組に疑問を感じました。そこでは有識者9人が紹介されたのですが、「経済界」「マスコミ界」「法曹界」などのカテゴリーの中で作家の林真理子さんと、大学教授の宮崎緑さんが「女性」枠で紹介されたのです。番組に批判が殺到し、テレビ局側は「政府が打ち出す『女性活躍推進』という方針が、懇談会のメンバーにも反映されているとみられる旨を説明したもの」と説明しました。
確かに今回、「平成」が決まったときとの違いのひとつに女性有識者の数が1人から2人に増えたということがあります。しかし、説明を聞いた後も、私の疑問は違和感に変わっただけでした。
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この春、社会学者の上野千鶴子さんが行った東京大学の入学式での祝辞が話題になりました。
上野さんはそこで東京医科大不正入試問題を取り上げ、女子学生と浪人生に差別があったことや、東大入学者の女子比率が2割であること、「息子は大学まで、娘は短大まで」でよいと考える親の性差別の問題を述べた後、ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイさんのお父さんの言葉を紹介しました。
「マララさんのお父さんは、『どうやって娘を育てたか』と訊(き)かれて、『娘の翼を折らないようにしてきた』と答えました。そのとおり、多くの娘たちは、子どもなら誰でも持っている翼を折られてきたのです。(中略)世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひとたちがいます。がんばる前から、『しょせんおまえなんか』『どうせわたしなんて』とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます」
祝辞を聞いていたのは東大の新入生たちです。彼らは相当勉強を頑張ってきたことでしょう。上野さんはそんな学生たちに「がんばれば報われる」と思えるそのメンタリティーそのものが環境の産物であることを伝えます。
「あなたたちが今日『がんばったら報われる』と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです」
上野さんは続けます。
「あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶(おとし)めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください」
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冒頭で取り上げた有識者会議の紹介で、林真理子さんと宮崎緑さんは、努力してきたことではなく、性別で分類されました。女性という属性で判断、評価されたのです。属性による差別は、評価や判断といった他人からもたらされるものだけではなく、意欲という本人の中から湧いてくるものにもつながっています。
上野さんの祝辞は東大生に向けられた言葉ですが、私は自分に自信のない大学生にも知ってほしいと思いました。「どうせ〇〇だから」と思うとき、その根本にあるのは個人的なことだけではありません。多くの場合、社会的なことにつながっています。
現在大学生である皆さんは頑張ることができます。頑張ったら、属性ではなくちゃんと個人が評価されます。夏も冬も、快適な環境で知識をどんどん蓄えることができます。私が新芽が好きなのは、学生に似ているからです。
地球温暖化を防ぐ木。雨を保水して生物に水を行き届かせてくれる木。光合成を行ってCO2から有機物をつくってくれる木。得た知識は、木のようにも使えるはずです。
新緑が輝く5月。新芽が成長して、木になることをイメージしながら今日も講義を続けています。
【金益見(きむ・いっきょん)】神戸学院大人文学部講師。博士(人間文化学)。1979年大阪府生まれ。大学院在学中に刊行した「ラブホテル進化論」で橋本峰雄賞を受賞。漫画家にインタビューした「贈りもの」、「やる気とか元気がでるえんぴつポスター」など著書多数。
2019/5/15