エッセー・評論

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イラスト・金益見
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イラスト・金益見

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 「恋愛」という文字はよくできているなぁと思います。

 〝恋は下心で愛は真心〟とサザンオールスターズは歌っていますが、読んで字のごとく全くその通りなんです。

 漢字をまじまじと眺めてみると、確かに「恋」という字には一番下に「心」がついていて、「愛」は真ん中に「心」がある。

 また「愛恋」ではなく「恋愛」というのもポイントですね。恋の次に愛という字がくるという、その順番にも考えさせられるものがあります。

   * * *

 大学に入学して映画研究会に入った私は、そこで出会ったY先輩に恋をしました。大学では、二つ年上というだけでも随分大人びて見えるもので、最初は先輩のポケットにタバコが入っていただけでドキドキしました(ちなみに、当時の私はポケットにたまごっちを忍ばせていました…年代を感じさせますね)。

 新入生歓迎会で一番好きな映画を聞かれて「となりのトトロ」と答えた私は、映研で〝わかってない奴(やつ)〟に分類されました(その頃の先輩方はキューブリックや、タランティーノに夢中でした)。

 しかし、Y先輩だけは私のことをバカにせずに、いろんな名作を優しく教えてくれたのです。「カサブランカ」「パリ、テキサス」「タクシードライバー」…。

 教えてもらったお礼は〝感想を伝えること〟だと思っていた私は、Y先輩のオススメ映画を真剣に鑑賞しました。

 これは今でも続けていることで、私は恋をすると必ず相手の好きな映画・音楽・本に触れます。その人への「興味」が、まだ知らない作品の扉を開いてくれるので、ものすごくラッキーだと思うのです(無料で「興味」をプレゼントしてもらったようなものです!)。それによって自分の世界が広がるし、まだ出会う前の彼の過去の時間と、自分の今が重なっていく感覚も素晴らしいなあと。

 しばらくして先輩とお付き合いすることになった私は、〝本気〟しか出しませんでした。本気で笑って泣いて喧嘩(けんか)して、また笑う…そうしていくうちに、「優しくしてくれるから好き」という下心は「この人を大切にしたい」という真心に変わっていきました。

 たまに「恋愛は本気になった方が負け」と言う人がいますが、私は逆だと思うのです。もしそこに勝ち負けがあるのなら、本気を出さずに適当な付き合いしかしなかった方が負けなんじゃないかと。たとえカッコ悪くても、人と本気で向き合うことで、ヒトは大きく成長するからです。

 少し講義っぽい話になりますが、「自分」や「自己」は「他人」や「他者」を介在させないと成長できません。なぜほとんどのヒトが3歳以前の記憶を失っているのかというと、そこにまだ「自分」がないからです。「自分」を知るためには「他者」の存在を知らなければなりません。つまり、ヒトは人と関わることで、自分自身と出会うことにもなるのです。

 恋愛の過程において生じた気持ちが、苦しいものでも楽しいものでも、それをたくさん感じられたなら、それだけひとりの人間に向き合ったということです。それは、自身が大きな成長を遂げるチャンスでもあるのです。

 ところでこの原稿を書いているときにゼミ生が研究室にやってきたので、大学生の恋愛事情を聞いてみました。すると、最近は付き合ってもすぐに別れるカップルが多いとのこと…。解決策を尋ねた私にゼミ生はこう答えました。

 「もっとコミュニケーションをとるべき。本気で話し合えるからこそカップルだと思うんです」(その通り! わかってるじゃんゼミ生!)。

 ということで、もう皆さんもわかっているかもしれませんが、一応まとめてみます。

 まず、暇つぶしの恋愛をしてもロクなことはありません。そういうふうに恋愛を〝使う〟のではなく、一丁本気を出して真心を育ててみてください(もうすぐ夏ですよ)。

【金益見(きむ・いっきょん)】神戸学院大人文学部講師。博士(人間文化学)。1979年大阪府生まれ。大学院在学中に刊行した「ラブホテル進化論」で橋本峰雄賞を受賞。漫画家にインタビューした「贈りもの」、「やる気とか元気がでるえんぴつポスター」など著書多数。

2017/6/14
 

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