エッセー・評論

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イラスト・金益見
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イラスト・金益見

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 「教室は命に関わらない安全な失敗をさせる場所です」

 学生時代にやっておいた方がいいことを一つだけ挙げるとするなら、「失敗すること」ではないかと、私は思います。

 失敗の数はチャレンジの数と比例します。「失敗しない方法」を知りたがる人は多いですが、絶対に失敗しない方法はただ一つ、「チャレンジしないこと」です。そこに成長はありません。

 シンガー・ソングライターの木村充揮(あつき)さんにインタビューしたときにいただいた、大好きな言葉があります。

 「心配せんでも失敗する!」

 本当その通り! いつでも、どんなときでも、失敗は、します(句読点を多めに打って、人生はつまずくことだらけだということを表してみました)。

 だからこそ、失敗を恐れてやめるのではなく、失敗は「前提」だと考える。

 「そんなに心配しなくても大丈夫! 人生はやすやすとうまくはいかない。心配しなくてもちゃんと失敗するから!」と木村さんは笑っておっしゃいました。

 先日、失敗を通して学んだ学生がいました。私もとても勉強になったので、彼女の感想を紹介します。

   * * *

 「まずはじめに、いっきょん先生に謝らなくてはならないことがあります…」。その感想は、ドキッとする前置きから始まりました。

 感想を読むとき、私は毎回緊張します。批判ではなく否定的な意見や乱暴な文字に傷つくことがあるからです。しかし、その感想は丁寧な文字で綴(つづ)られていたので、安心して読み進めることができました。肉筆から、彼女の整った姿勢が感じられたからです(学生さん、先生って内容だけでなく、書体もみているものなのですよ)。

 「今回、私は課題をやってきませんでした。

 いつもは課題を忘れても、『謝らないと!』とは思いません。ですが、いっきょん先生の授業の場合は先生が本気だし(ほかの先生が本気じゃないわけではないですが)怒られるというより、先生が悲しむという発想になりました。

 課題は私たちの学びのために出されたものです。それをやることで身につくはずだった力を、その機会を、私は自ら逃してしまいました」

 課題を忘れたときに、「忙しくてできなかったこと」や「やってきたけど忘れたこと」を主張する学生は多いですが、そこに成長はありません。

 しかし、課題をやらなかったことを正直に告白して、しみじみと後悔している彼女は、そこから学びを得ていると思いました。

 「謝る」ということは、許してもらうためや、自分が楽になるためだけの行為ではないということ。

 「謝る」ことで育つ勇気があること。

 「謝りたい」と思うまでの過程に、相手の気持ちを想像する時間があること。

 思いやりがなかったことを謝ることはあっても、「謝る」ことを通して思いやりが生まれることもあるんだ!と私も彼女から新しい学びを得ました。

   * * *

 大切なのは、失敗しないことではなく失敗をしたときにそこから学ぶことです。そして、同じ失敗を繰り返さないこと。

 大きな失敗だけではありません。例えば大学生なら、自分がどんなときにサボったか、どんなときに欲に流されたか…それらを分析して、同じような状況をつくらないようにすること。些細(ささい)なことでも「あれは失敗だったなあ」と思うなら、繰り返さないこと。

 失敗は学校。

 失敗は先生。

 失敗はチャンス。

 失敗したときこそ、次の自分に進めます。

 その先でももちろん失敗しますが、同じ失敗をしなければ、ぐんぐん先に進めます。

 大学生のみなさん、どんどん失敗してください。失敗をして、汗かいて、恥かいて、その先へ!

【金益見(きむ・いっきょん)】神戸学院大人文学部講師。博士(人間文化学)。1979年大阪府生まれ。大学院在学中に刊行した「ラブホテル進化論」で橋本峰雄賞を受賞。漫画家にインタビューした「贈りもの」、「やる気とか元気がでるえんぴつポスター」など著書多数。

2017/11/8
 

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