エッセー・評論

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イラスト・金益見
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 「違うことをしないこと」。

 何かを選ぶときに、この言葉をいつも念頭に置いておくだけで判断を間違えない、魔法の言葉です。

 決断や選択に迫られたとき、多くの人は何が正解かを考えるのではないでしょうか。

 例えば私は今までずっと、ぴったしカンカンを探してきました。自分に最も似合うスタイル、一番相性のいい関係など、ぴったりと合うものを追い求めてきた気がします。

 しかし、その選択が正解かどうかは、そのときにはわかりません。まれに確信に近い形で判断できるときもあるのですが、その選択が正しかったかどうかは、振り返ったときにわかるものです。

 答えはここ(現在)ではなく、向こう(未来)にいかないとわからないのに今の地点で正解かどうかを考えるという、不毛なことを随分とやってきたような気がします…。

 でもそれに気づいたからといって、何かで迷ったときに「この選択が正解なのか」と考えてしまうことには変わりありません。そこで、考え方を少し変えるだけでスムーズに判断できる(かつ、振り返ったときにかなりの確率でその選択は正しかったと思える)魔法の言葉に出逢(であ)ったのです。それが冒頭に書いた「違うことをしないこと」です。

 この言葉に目が留まったのは、吉本ばななさんのエッセー集のタイトルになっていたからです。本の内容紹介文には「違うこと」が次のように書かれていました。

     *    *

 「『なんか違う。』その直感がそう教えても、義理とかしがらみ、習慣に縛られて、我慢したり、そんな風に思う自分を責めたりしていませんか。自分を生きるって、むずかしいこと。これをすれば幸せになれるとか、これをやめないと不幸になるとかではありません。自分を生きるためには、まずは自分に正直であること。本来の自分を生きるには違うことをしないことが大切なのです」

     *    *

 「違うことをしないこと」は「違和感を大切にすること」とも言い換えることができます。「ぴったり」を見つけることは難しいかもしれませんが“違和感”はそれなりに感じることができると思うのです(ある意味、直感より違和感の方が感じやすい気がします)。

 例えば、違和感を手放さなかったおかげで先日とっても素敵(すてき)な出逢いがありました。

 ある日いきなり、ブーツの底が取れたんです(ぱかっと見事に)。両面テープで補修して少しの間はなんとかなったものの、「修理して履き続けるか」「思い切って捨てるか」を考えた結果、後者を選びました。もう寿命だったので、新しいものを買おうと決めたのです。

 ところが、ブーツを選ぶ段階になって、「私にぴったりの靴と出逢いたい!」といつもの正解を求める癖が出てきました。すると、いろんな欲にとらわれてなかなか決められません…そこで「違うことをしないこと」を思い出し、「私はどんなブーツを選ぶ自分に違和感を抱くのか」ということを言語化しました。

 ・履きやすさや歩きやすさより、定番やブランドを気にする自分

 ・肩を並べて歩く男性との身長差を考慮して、低いヒールを選ぶ自分

 どちらも自分の中にありながらもずっと違和感を抱いてきた自分でした。

 そこで選んだのは、10センチヒールでガシガシ歩けるCAREYという名の超かっこいいブーツ(ジップ付きで着脱も楽!)。違和感と向き合った結果、定番が持っている安心感を捨てて、ヒールの高さを気にせずに選んだことで出逢えた靴でした。

     *    *

 「違うことをしないこと」は、せっかく感じた「なんか違う」を無視しないことです。後からついてきた欲に惑わされずに違和感を大切にすると、本来の自分が見えてくることがあります。

 私はかわいいよりもかっこいい、流行ではなく独自の道をいく女性に憧れていたのです。この冬、CAREYと共にガシガシ街を闊歩(かっぽ)すっぞ!

【金益見(きむ・いっきょん)】神戸学院大人文学部講師。博士(人間文化学)。1979年大阪府生まれ。大学院在学中に刊行した「ラブホテル進化論」で橋本峰雄賞を受賞。漫画家にインタビューした「贈りもの」、「やる気とか元気がでるえんぴつポスター」など著書多数。

2019/11/13
 

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