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 阪神・淡路大震災の発生から丸29年となった1月17日、インターネット上の仮想空間「メタバース」を使った追悼行事が開かれた。若い世代を中心に国内外から約300人が視聴するなど反響は大きく、「兵庫の被災者と思いを分かち合えた」との感想も。ネット空間は新たな追悼の場となるか、注目される。(津谷治英)

 神戸市須磨区のデザイン会社「ザ・スクール・ガール・デザイン」の大澤誠代表(36)が企画した。参加者がパソコンなどでアクセスすると、ネット上の追悼式を視聴できる。

 画面の会場は、震災犠牲者の名を刻む「慰霊と復興のモニュメント」がある神戸・三宮の東遊園地をイメージ。17日の夜8時に開会し、黙とうの後、中央の大スクリーンに壊滅した街や被災者の生活など29年前の写真が映し出された。

 追悼の言葉のほか、「しあわせ運べるように」の合唱、ゲスト専門家による復興課題の解説もあり、式は約1時間。その後、X(旧ツイッター)を通じて多くのコメントが寄せられた。

 山形県の男性(30)は、「どこにいても参加できるのは魅力。あらためて語り継ぐ重要性を感じた」。自身は2011年の東日本大震災の時、福島県内を走る電車内で地震に遭遇。約2時間、車内に閉じ込められた後、線路を歩いて避難したといい、メタバース追悼式が広がれば「災害の記憶を子どもたちに伝える場にもなる」と期待した。

 「日本の災害からの回復力には、いつも刺激を受けている。このイベントはその証し」とはフィリピンの男性。「優しさ、支え合いの大切さが世界中の人々に伝わればいい」と記した。

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 企画の背景には、地域の追悼行事を担ってきた被災者が高齢化し、行事の継続が難しくなってきたことがある。

 神戸市中央区の民間団体「市民による追悼行事を考える会」によれば、震災29年の行事は震災25年時から約3割も減った。

 その点、ネットでの追悼式は、会場に足を運べない高齢者や遠方の人でも自宅から参加できる。ただし、ネットでの追悼に抵抗を感じる人も。今回、ゲスト解説した兵庫県震災復興研究センター(神戸市長田区)の出口俊一事務局長(75)も当初は戸惑ったという。「デジタルの世界は苦手で、講話を依頼された時は実感がわかなかった」

 実際に参加してみると、先入観は一変した。「多くの人とつながれた。若い人のセンスで新たな形を提示してくれたと思う」

 追悼式で、能登半島地震に思いを寄せた人もいた。新潟県の参加者は「現在苦しむ被災者に、自分ができることはないかを考える時間になった」という。

 企画した大澤さんも、小学3年の時に須磨の自宅で被災した。「能登は人ごととは思えない」と話し、ネット上で被災者らがつながるイベントなど新たな展開を検討している。

2024/3/12
 

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