にぎやかなイラストが描かれた外壁とプレハブ小屋-。ここが教会だと気付くには少し時間が必要かもしれない。敷地の中央あたりに、焼失を免れたキリスト像が、ぽつんと立っている。
神戸市長田区、カトリック鷹取教会。在住外国人への情報発信を目的に震災後に生まれた多言語放送局をはじめ、多様なグループの活動拠点として知られる。掲げるテーマは「多文化共生」だ。
文化や言語の違いを乗り越え、支え合って生きる-。そんな多文化共生を考える集いが今年一月、神戸市長田区内であった。ただし、こちらは同じ外国人でも「在住」ではなく、コミュニティーを持たない「留学生」が主役。参加した中国・上海からの留学生、郭蓉(かくよう)さん(34)は、来日五年目、大学生のときに震災を経験した。
幸い、住んでいたアパートは倒壊を免れた。母国の両親に電話で無事を伝えたが、間もなく電話が不通になった。「避難所は許可がないと入れないと思っていたし、学部生の私には大学にも頼れる人はいない。本当に独りぼっちでした」
「日本で学ぶ夢をあきらめて帰国しようか」。そんな考えも浮かんだが、手を差し伸べたのは、近所の人々だった。遠慮する郭さんに代わって配給物資を確保してくれた女性がいた。銭湯の順番待ちの間に前後の人たちと会話が生まれた。
「共生とは、日常会話など小さなことの積み重ねではないでしょうか」。郭さんは言った。「多文化共生」。口に出すと難しそうな響きだが、肩ひじ張らずに、できることから-。そういえば、キリスト像もどこかリラックスしたような表情に見える。
(記事・中川佳男、写真・三浦拓也)
2005/2/17(33)伝える 慰霊と復興のモニュメント(神戸市中区)2005/3/3
(32)同胞 神阪中華義荘(神戸市長田区)2005/2/24
(31)共に生きる カトリック鷹取教会(神戸市長田区)2005/2/17
(30)母の思い 甲橋(神戸市灘区)2005/2/10
(29)祈念石 石手寺(松山市)2005/2/3
(28)クスノキ 御蔵南公園(神戸市長田区)2005/1/27
(27)わすれない 精道幼稚園(芦屋市)2005/1/20
(26)寅さん 「男はつらいよ」ロケの記念碑(神戸市長田区)2005/1/15
(25)崩れた鳥居 郡家の復興住宅(津名郡一宮町)2005/1/14
(24)学びやの鐘 高木小学校(西宮市)2005/1/13
(23)復興とは 大蔵海岸公園(明石市)2005/1/12
(22)追悼 西宮震災記念碑公園(西宮市)2005/1/11
(21)姉妹盟約 魚崎町協議会(神戸市東灘区)2005/1/6
(20)煙突 萌黄の館(神戸市中央区)2004/12/23
(19)鉄道員 JR六甲道駅(神戸市灘区)2004/12/16
(18)タイムカプセル 砂防公園ゆずり葉緑地(宝塚市)2004/12/9
(17)下町 日吉町ポケットパーク(神戸市長田区)2004/12/2
(16)見守るハト 明石銀座商店街(明石市)2004/11/25
(15)花畑 地すべり資料館(西宮市)2004/11/18
(14)望郷 市営岩岡住宅(神戸市西区)2004/11/11
(13)父の原点 阪急伊丹駅(伊丹市)2004/11/4
(12)サイン 中突堤中央ターミナル(神戸市中央区)2004/10/21
(11)神戸の壁 しづかホール(津名郡津名町)2004/10/14
(10)ドラム缶の鐘 西法寺(芦屋市)2004/10/7
(9)合掌 信行寺(神戸市須磨区)2004/9/30
(8)リンゴの木 樋ノ口小学校(西宮市樋ノ口町2)2004/9/23
(7)馬場さん 県立明石公園(明石市)2004/9/16
(6)観音像 田中鉄工所(神戸市東灘区)2004/9/9