厳しい夏の日差しが西に傾き、真新しい街灯が石畳を照らし始めるころ、仕事を終えた商店主たちが、「五時四十六分」を差したままの大時計を目指し、集まってくる。組合事務所で週に二度開かれる役員会。震災から間もなく十年になるが、復興はいまだ途上だ。
阪神西宮駅の南に広がる西宮中央商店街。かつて二つの市場を含む計約二百二十店が軒を連ねたが、震災で約八割が全半壊し、半分の規模になった。市場は四店を残すのみで、跡地には超高層マンションがそびえる。
西宮神社に近く、“えべっさん”の門前町としてにぎわった。「昔は隣の人のそでとそでとが触れ合うほど。西宮の中心地やったのに」と酒店を営む岡山勝義理事長(60)はくちびるをかむ。
「このままでは、いけない」。商店主は生き残りをかけ、昨年春から、老朽化と震災で傷んだアーケードを撤去した。その際、地震で止まった大時計を取り外し、モニュメントとして残すことを決めた。
大時計は、買い物客らが一休みする、花や木に囲まれた広場にある。直径約一メートル、約三十キロ。一九七八年ごろ、近くの時計店主によって贈られ、商店街の繁栄と震災後の苦悩を見続けてきた。「今後は私たちの復興を見届けて」。商店主たちは再生への思いを託す。
昨年秋、地元商店などが入った再開発ビルが開業。今春は、街灯と石畳も完成した。見上げれば、青い空。差し込む日差しがまぶしい。
「十年を迎える日、この時計の前で、もう一度復興を誓い合いたい」と岡山さん。大時計は、商店街の再生への確かな歩みを刻み始めている。
(記事・小西博美、写真・大山伸一郎)
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