西宮市北東部の住宅街。秋風が吹き始めた樋ノ口小学校の校庭には、互いに寄り添うようにリンゴの木が五本立っている。大震災で犠牲になった児童五人を悼み、住民らが翌年に植えた。傍らには弧を描き、今にも空へ飛び立とうとする、チョウのモニュメント。
「羽ばたく自由を奪われた子どもたちのことを忘れず、地域のきずなにしたかった」。樋ノ口地区で防犯協会支部長を務める中村賢一郎さん(55)は目を細める。中村さんらの呼び掛けで、二〇〇〇年に完成した。
同地区では、震災で二千九百四十世帯の四割が全半壊し、十五人が犠牲になった。あれから約十年。田園地帯は住宅地に変ぼうし、住民の約半数を震災後の転入者が占める。体験のない人々に震災をどう伝えるか-は被災地共通の課題だ。
「ただモニュメントのいわれを伝えればいいとは思っていません」と同小の澤徹校長(55)。「防災意識を定着させるため、全員に防災頭巾(ずきん)を持たせることから始めたい」と熱っぽく語る。
中村さんもまた、「記憶の風化を防ぎたい」と今年一月、初めて同地区周辺の慰霊碑を巡るメモリアル・ウオークを企画。「震災を心に刻んでおきたい人たちと過ごす貴重なひとときでした」との声が寄せられた。終了後、モニュメントに供えられた灯ろうの灯は、一晩中絶えることがなかったという。
収穫を前に、リンゴの葉が揺れる。枝には青い実が一つ。三年前の秋、初めて実が鈴なりになった。度重なる台風にも負けず、しっかりと根を張り、実をつける木々。子どもたちの未来への力強いメッセージに思えた。
(記事・西井由比子、写真・大山伸一郎)
2004/9/23(33)伝える 慰霊と復興のモニュメント(神戸市中区)2005/3/3
(32)同胞 神阪中華義荘(神戸市長田区)2005/2/24
(31)共に生きる カトリック鷹取教会(神戸市長田区)2005/2/17
(30)母の思い 甲橋(神戸市灘区)2005/2/10
(29)祈念石 石手寺(松山市)2005/2/3
(28)クスノキ 御蔵南公園(神戸市長田区)2005/1/27
(27)わすれない 精道幼稚園(芦屋市)2005/1/20
(26)寅さん 「男はつらいよ」ロケの記念碑(神戸市長田区)2005/1/15
(25)崩れた鳥居 郡家の復興住宅(津名郡一宮町)2005/1/14
(24)学びやの鐘 高木小学校(西宮市)2005/1/13
(23)復興とは 大蔵海岸公園(明石市)2005/1/12
(22)追悼 西宮震災記念碑公園(西宮市)2005/1/11
(21)姉妹盟約 魚崎町協議会(神戸市東灘区)2005/1/6
(20)煙突 萌黄の館(神戸市中央区)2004/12/23
(19)鉄道員 JR六甲道駅(神戸市灘区)2004/12/16
(18)タイムカプセル 砂防公園ゆずり葉緑地(宝塚市)2004/12/9
(17)下町 日吉町ポケットパーク(神戸市長田区)2004/12/2
(16)見守るハト 明石銀座商店街(明石市)2004/11/25
(15)花畑 地すべり資料館(西宮市)2004/11/18
(14)望郷 市営岩岡住宅(神戸市西区)2004/11/11
(13)父の原点 阪急伊丹駅(伊丹市)2004/11/4
(12)サイン 中突堤中央ターミナル(神戸市中央区)2004/10/21
(11)神戸の壁 しづかホール(津名郡津名町)2004/10/14
(10)ドラム缶の鐘 西法寺(芦屋市)2004/10/7
(9)合掌 信行寺(神戸市須磨区)2004/9/30
(8)リンゴの木 樋ノ口小学校(西宮市樋ノ口町2)2004/9/23
(7)馬場さん 県立明石公園(明石市)2004/9/16
(6)観音像 田中鉄工所(神戸市東灘区)2004/9/9