初めて見る人はだれもが驚くだろう。でも当時を記憶する人は、その理由にうなずくに違いない。鐘がドラム缶でできていることに。
芦屋市茶屋之町の西法寺。昨年再建された本堂の屋上にそれはある。墨で「阪神・淡路大震災 追悼之鐘」。
震災直後から本堂には被災者が身を寄せた。倒壊家屋の廃材を燃やして暖を取り、ドラム缶に湯を沸かした。仮設ぶろには長い列。冷え切った心と体を温めたとき、だれもが「生きている」と実感した。
「たたいたらどんな音やろ」
新しい本堂の設計に携わった同市南宮町の工務店経営、藤野春樹さん(52)は昨年春、副住職の上原照子さん(53)に打ち明けた。何よりも当時を雄弁に物語る、一風変わった鐘が誕生した。
寺がある茶屋之町、近くの大桝町、公光町の三町は建物の大半が全半壊し、四十数人が犠牲になった。中央地区として実施された復興土地区画整理事業は一昨年、ようやく終了した。
「でも、あの悲しみを癒やすには十年は短すぎる」と上原さん。ただ一人助かった高齢の女性は「死にたい」と繰り返した。母と妹を失い、後を追うように父も逝き、独りになった若者も。「頑張ってとは口にできません。ゆっくりしてね、そして何とか幸せに、と願っています」
完成直後の本堂で阿弥陀如来を眺めるうち、藤野さんは悩みが消えていく気がした。「ここをだれもが集える場所に」。副住職の願いだ。
追悼の鐘をついた。「ゴワーン、ゴワーン」。どこか懐かしい音色が線路沿いの下町に響いた。
(記事・竹内 章、写真・大山伸一郎)
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