エッセー・評論

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平井晶子教授 (注)離婚率は人口1000人あたりの離婚数 江戸時代の値は1農村の事例で、20年ごとの平均値 <資料>1750~1860年は「人別改帳」、1883、1890年は「帝国統計年鑑」、1900年以降は「人口動態統計」
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平井晶子教授

(注)離婚率は人口1000人あたりの離婚数 江戸時代の値は1農村の事例で、20年ごとの平均値 <資料>1750~1860年は「人別改帳」、1883、1890年は「帝国統計年鑑」、1900年以降は「人口動態統計」

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  • (注)離婚率は人口1000人あたりの離婚数 江戸時代の値は1農村の事例で、20年ごとの平均値 <資料>1750~1860年は「人別改帳」、1883、1890年は「帝国統計年鑑」、1900年以降は「人口動態統計」

平井晶子教授 (注)離婚率は人口1000人あたりの離婚数 江戸時代の値は1農村の事例で、20年ごとの平均値 <資料>1750~1860年は「人別改帳」、1883、1890年は「帝国統計年鑑」、1900年以降は「人口動態統計」

平井晶子教授

(注)離婚率は人口1000人あたりの離婚数 江戸時代の値は1農村の事例で、20年ごとの平均値 <資料>1750~1860年は「人別改帳」、1883、1890年は「帝国統計年鑑」、1900年以降は「人口動態統計」

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  • (注)離婚率は人口1000人あたりの離婚数 江戸時代の値は1農村の事例で、20年ごとの平均値 <資料>1750~1860年は「人別改帳」、1883、1890年は「帝国統計年鑑」、1900年以降は「人口動態統計」

 この20年、家族は目にみえて変わってきた。かつては子や孫と暮らすのが理想とされたが、今ではひとりで、または施設で暮らす最期をポジティブにイメージできるようになってきた。適齢期という言葉も死語となり、結婚はしてもしなくてもいいものに変わった。けれど家族の変化はいつも実感できるわけではない。

■江戸・明治の日本は離婚大国!

 かつて離婚を減らすことが国是とされた時代があった。明治のはじめ、離婚の多さが欧米列強との不平等条約改定の障壁のひとつになっていたからである。当時、欧米社会はキリスト教の影響で離婚は極めて少なかった。正式な離婚が認められていない国もあった。離婚は野蛮なもの、その離婚が多い日本は文明国とはほど遠い、したがって不平等条約も当然、というロジックで日本に対峙(たいじ)してきた。

 ではどれほど離婚が多かったのか。一枚の図を作ってみた。過去300年の変化を、離婚率(人口1000人あたりの離婚数)であらわしたものである。江戸時代については街道沿いの農村の事例を、明治以降については全国統計を使っている。人口500人前後の村の事例ではどうしても変動幅が大きくなる。そもそも一村落の値と全国統計を同列に扱うのは無理がある。しかも江戸時代は地域差が大きい。それでも大きなトレンドをみる次善の策として並べてみた。

 一見してわかるとおり、江戸時代の離婚率は明らかに高い。明治に入ると徐々に下がるが、それでも国是がかない(?)、離婚率が低くなるのは20世紀に入ってからである。「欧米は離婚が多いが、日本は少ない」「最近になって離婚が増えた」というのが一般的な理解であろうが、百年さかのぼるとその関係はひっくり返る。

 江戸時代は封建的で、嫁が追い出される悲惨な時代だったのか。実は江戸時代の離婚は嫁入婚だけではなく、婿入婚でも多かった。家に合わなければ、夫婦が合わなければ、早めにやり直す「お試し婚」が離婚率を上げていた。「死がふたりを別(わか)つまで」という意識ではなく、試してダメならやり直す、これが江戸から明治の結婚であった。

 相手と合わないとはどういうことか。10年付き合ったカップルが結婚してすぐに別れることもあれば、出会って2カ月で結婚しても続くことがある。かように結婚とは不思議なもの。

■国際比較で現在地を見直す

 それを象徴するひとつが「異文化体験としての結婚」という視点である。国境をこえる結婚でなくても、出身地が同じでも、それぞれの家にはそれぞれの味、それぞれのルールがある。普段まったく気づかずに暮らしているが、別のルールが出会う(衝突する)結婚ではそれが露呈する。それが楽しいこともあれば、バトルの原因となることも。心あたりのある方も多いのではないか。

 10年前から国際結婚の調査も行ってきた。兵庫県但馬地域、さらには台湾・韓国・タイでも、国際結婚の送り出し社会・受け入れ社会双方の暮らしをみてきた。国際結婚は、結婚で生じる「異文化体験」の幅も深さもケタちがいに大きい。しかし、はじめから「ちがう」という覚悟がある分、寛容に対応できたり、ちがいをおもしろがれたりする部分は当然ある。

 国際結婚には文化のちがいに加え、国籍など制度から生じる問題もある。「平時」には大して問題にならないことも、コロナ禍で国際移動に制限がかかると、いきなり大きな壁として立ちあらわれる。今、インドからの入国制限が強化されつつあるが、そこでも「日本人の配偶者」は微妙な位置に立たされる。同じ結婚なのに、国籍という属性により別次元の困難が立ちあらわれる。

 私が専門とする家族社会学・歴史人口学は、長い時間軸を使ったり、外国と比較したりして、いつもとはちがう角度から家族の現在地をとらえなおす。知ることでだれもが窮屈な家族から自由になれる。いつの時代の、どの社会にでもある家族から「他者」をみるからこそ、共感しながら、ちがいを知るきっかけを与えてくれる。

【ひらい・しょうこ】1970年奈良県生まれ。神戸大学文学研究科修了。ケンブリッジ大学客員研究員などを経て、2007年から神戸大学勤務。

<ブックレビュー>

◆出会いと結婚 平井晶子・床谷文雄・山田昌弘編(日本経済評論社)

 結婚難のイタリアでおきている「ほどける結婚」、婚外子が多い近世西南日本の結婚、大正から現代までの法改正の議論など、比較と歴史を軸に学際的に結婚を論じている。新しい「結婚」に出会える一冊。

◆外国人移住者と「地方的世界」 東アジアにみる国際結婚の構造と機能 藤井勝・平井晶子編(昭和堂)

 兵庫県但馬地方、韓国、台湾を中心におこなった国際結婚の実態調査をまとめた。送り出し社会の事情にも踏み込んでおり、外国人移住者の背景も見えてくる。先進的な取り組みを進めてきた韓国、台湾の受け入れ体制も紹介している。

<P.S.>50代になりました

 「年をとるって悪くない!」。これが50歳を過ぎた偽らざる気持ちです。体も頭もかなりへたっているのですが、それを補ってあまりある何かが降ってきました。諸先輩方から年を重ねることの楽しさはあまり聞かなかったのですが、私から話をふると「意外と悪くないでしょ」と返ってきました。公然の秘密だったのでしょうか。

2021/5/22
 

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