エッセー・評論

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イラストレーターWAKKUNこと涌嶋克己さん
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 この連載の第1回で書いたけれど、ボクは大学を3回生の時に中退した。

 アルバイトをしながら絵を描いていたのだけれど、1970年代初めの頃、ブリティッシュやアメリカンロック、日本のフォークロックなどを聴かせてくれるロック喫茶が神戸にたくさんあった。

 当時ロック喫茶でボクは音楽を聴きながら、これからのことを考えたり、少しつかれた自分の心を休めたりしていた。

 そんな時、

 「いつもこの店でお顔を合わせるのですが、あなたは一体、何をしておられる方なのですか?」

 ふいに、カウンターの隣から声がかかった。

 見ると若い女の子の4人連れで、

 「私たちは大学生で、それぞれ美術部と放送部に所属していまして、ちょうど今、大学祭中なのですが、よかったら遊びに来ませんか?」

 と、うれしいおさそいの声がかかった。

 大学祭に遊びに行ってから彼女たちと親しくなり、友だちになった。

 若い者同士、自分の夢や悩み、恋愛のことなどをたくさん話し合える仲になっていった。

 まだ社会的に何者にもなりえていないボクにとって、店は大切な自分の居場所にもなったのだった。

 もう一つ、忘れられないことがある。ロック喫茶という大切な自分の居場所に、大学時代の親友を呼び出し、大切な約束をしたことだ。

 後に「嗚呼!!花の応援団」という大ヒットマンガを描くことになる「どおくまんプロ」の小池たかしくんを呼び出し(当時まだ彼も無名で、一流マンガ家になる夢を持つ青年だった)、ふたりで約束をした。

 「互いにマンガ家、絵本作家として、おのおの自分の道を生きてゆくのだけれど、この道はとっても険しい急な坂道で、上から石は落ちてくる、穴はある、スベル、それも次から次におそいかかる。けれど人から無理やり行かされているのではなく、自分が選んだ道やから、どんなことがあってもクサらんとこな!」

 「クサッて、人や時代のせいばっかりにしとったら、大切なモノが見えんよーになるから…。自分を信じ、希望をすてずに歩いていこな! そしたらやがて光が見えてくるから…」

 そんなことを言い合い、約束した場所でもあったのでした。

 友だちがいてよかった。

(涌嶋克己、イラストも)

【わくしま・かつみ】1950年神戸市長田区生まれ。画家、イラストレーター、絵本作家。86年から個展やグループ展を開催。WAKKUN(わっくん)の愛称で知られる。同区在住。

2021/10/13
 

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