エッセー・評論

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イラストレーターWAKKUNこと涌嶋克己さん
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 その日、ボクはあせっていた。

 会う約束の人は昼をすませて待っているだろう…。用事が片づかず、約束に少し遅れそうだから、ゆっくり昼を食べる時間がない。早くすませられる食事は…。よく見ると、ちょうどそこに冷えたソーメンがあり、ソーメン汁もあった。しかも冷蔵庫にネギもあった。

 はり切って、まな板にネギを置いたのだが…むむむ包丁が見つからない。

 どこを探しても見つからないので、キョロキョロしながらテーブルの端を見ると、そこにハサミがあった。包丁がわりに、これでネギを切ろうと思い、大きく2センチぐらいにザクザク切った。

 よし、これで出来あがり! 冷たいソーメン汁にネギをブチ込み、食べだした。

 と、その時。2センチぐらいのネギが上の歯と下の歯の間にタテに入り、それを思い切り噛(か)んだ時だった。

 歯と歯の間からネギ汁がジュワーと口中に広がった。

 「お・い・し・い!」

 鼻にプワァーンとぬける香りと鼻の中に残るさわやかさ、少しの刺激と心やすらぐ香りというか匂い!

 「ネギ おいしい!!」

 心の底からそう思った。

 今までネギは、とうふやうどんや納豆の横にある添えものとしてしか認識していなかったんだ。

 何も深く知らないくせに、やれ、九条ネギがどうだの、下仁田ネギはどうだのと人に話していたことがはずかしくなった。

 口の中に残った香り、匂いを味わいながら、急いでいることを忘れ、

 「知らなかった…知らなかった…」

 と、ボクはくり返し続けたのでした。

(涌嶋克己、イラストも)

【わくしま・かつみ】1950年神戸市長田区生まれ。画家、イラストレーター、絵本作家。86年から個展やグループ展を開催。WAKKUN(わっくん)の愛称で知られる。同区在住。

2021/7/14
 

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