エッセー・評論

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イラストレーターWAKKUNこと涌嶋克己さん
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 新型コロナの影響で、重く、スッキリしない日々が続いているが、ある日、晴れた空を見上げて思い出したことがあった。

 10年ほど前、大阪の福島のギャラリーで個展をした時のことだ。

 個展の日は決まっているのに、ボクは絵が描けなかった。というのも、母が足を悪くして入院し、お医者さんから、切断しなくてはいけないと言われていたのだが、母は「切るのは絶対いやだ!」と言う。で、息子であるボクに、母を説得し、切る方向に話を進めてほしい。そんなふうに言われていたのだ。ボクは悩んだ。作品どころではない重い気持ちの毎日が続いていた。

 ところがある朝、入院中の母から電話があった。

 「あんたなァ、私、足、切らんでええねんて!」

 「な、なんで?」とボクが聞くと、母は「担当の先生が若い先生に替わってな! その先生が、もう一度レントゲン見て、私の足をさわってみてな、『切らなくていいです!』って言うてくれてん!」

 「ほっ、ほんま!」とおどろきながらも、ボクは心の底からほっとした。

 何はともあれ気持ちが楽になったので、チャイ(ミルク紅茶)でも飲もうと、西元町のアトリエを出た。

 元町商店街を北に上がって、友達のカレー屋に向かった。

 その時見上げた空は本当に青かった。

 その青い空に、コッペパンみたいな形をした小さな雲がひとつ、気持ちよさそうに浮かんでいた。

 それを見ていて、ボクは重い心から解放されて軽くなっていった。

 と、ふいに大阪の個展のタイトルが浮かんだ。

 「ポカン ポカン」というタイトルになった。

(涌嶋克己、イラストも)

【わくしま・かつみ】1950年神戸市長田区生まれ。画家、イラストレーター、絵本作家。86年から個展やグループ展を開催。WAKKUN(わっくん)の愛称で知られる。同区在住。

2021/8/11
 

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