エッセー・評論

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イラストレーターWAKKUNこと涌嶋克己さん
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 何だか重い空気につつまれている今日、この頃。ほんの小さな光でも見えないかなァと考えていて、ハッと思い出した。

 ネパールで18年も医療活動をなさっていた故・岩村昇先生が以前話してくださった、御自身の経験のことだ。

 ネパールでは病院が少なく、遠い村から山々を越えて行かなくてはならないので、重い病気で来られない人々のため、岩村先生自身が山を越え村々に出向き診察をしていた。ある日、ある村で重い病気のおばあさんを診た時、設備の整った病院まで行けば助かるのだが、彼女を背負っては山が険しすぎ、自分ではどうにもならないので途方に暮れてしまい、ただただ神様に祈り続けるしかなかったのでした。

 しかし、幸運にも、よく朝、荷物を運ぶ仕事の若者がやって来て、その事情を知り、何と自分の荷物を置いて、おばあさんを背負い病院をめざし、山々を越えて歩きだしてくれたのでした。

 そして3日目にやっと病院にたどり着けたので、岩村先生は「ここからはボクの仕事だ、ほんとうにありがとう!」と彼に礼をのべ、3日分のお金を渡そうとしたが、彼は受けとろうとしませんでした。

 そして彼は「ボクは若くて力もあります。でも、おばあさんは年をとられていて、しかも病気で元気がありません。だから3日分のボクの元気をおばあさんに分けました」。そう話した上、「おばあさんを運んだことで徳を積むことができました。運ばせてくださった岩村先生に感謝します」と言ったそうだ。

 先生が彼に「どうしてそこまで親切にしてくれるんだい?」と聞くと、彼は「サンガイ・ジウナコ・ラギ(みんなで生きるためだよ)」と言葉を残し、帰って行ったのでした。

 その若者の足は、はだしで、服もやぶれていたのでした。

 岩村先生は若者から大きな幸せをもらったので、「私は心の中でサンガイ・ジウナコ・ラギの言葉をくり返しながらネパールでいっしょうけんめい働いたんだ」と話を結ばれました。

 サンガイ・ジウナコ・ラギ

(涌嶋克己、イラストも)

【わくしま・かつみ】1950年神戸市長田区生まれ。画家、イラストレーター、絵本作家。86年から個展やグループ展を開催。WAKKUN(わっくん)の愛称で知られる。同区在住。

2020/5/13
 

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