エッセー・評論

  • 印刷
イラストレーターWAKKUNこと涌嶋克己さん
拡大

イラストレーターWAKKUNこと涌嶋克己さん

  • イラストレーターWAKKUNこと涌嶋克己さん

イラストレーターWAKKUNこと涌嶋克己さん

イラストレーターWAKKUNこと涌嶋克己さん

  • イラストレーターWAKKUNこと涌嶋克己さん

 1995年の阪神・淡路大震災の後、西宮市で被災したボクの友人で画家仲間のミツル・カメリアーノは岡山県の牛窓町(現・瀬戸内市)に引っ越していた。

 彼は岡山で絵の学校の先生をしていた。

 「生徒たちにWAKKUN(わっくん)の特別授業を受けさせたいので、一度来てくれないか?」と、さそわれた。

 早速ボクは岡山に行って、そこの生徒たちと気持ちを込めて大きな絵を描くワークショップをした。

 その授業が終わった後、カメリアーノはボクに会わせたい、ステキな画家の先輩がいるので牛窓オリーブ園に行こう!と言い、連れて行ってくれた。

 その方は佐竹徳さんという有名な画家で以前は東京の中央画壇で活躍されていた人だった。

 彼が岡山に引っ越されたとき、先生に住宅を提供しましょう、という岡山県の申し出をやんわりと断られ、御自身でアトリエをオリーブ園の中につくられていた。

 アトリエをたずねてみると、先生はオリーブ園の中のどこかでスケッチをされているとお弟子さんに聞いたので、カメリアーノと2人、オリーブ園の中をさがしてまわった。

 オリーブの木々に囲まれ、布製でテントのような日よけの下で、ゆっくりスケッチをされている先生を見つけた。

 カメリアーノは、座ってスケッチをなさっている先生に「先生! 友達をつれて来ました」と声をかけた。続けて「ボクのこの友達は、先の阪神・淡路大震災のとき、神戸のあちこちで復興支援のために絵を描いたり、ボランティアTシャツをつくって寄付をしたりしていた友達なんです!」と言った。

 先生は「ここに座りませんか?」と、御自身の横に手を置き、ボクにやさしく声をかけてくださいました。

 隣にゆっくり腰をおろすと、先生は目をとじられ「ボクもたくさん絵を描きました」と、ゆっくりかみしめるように話されました。

 それを聞いたボクは阪神・淡路のときに先生が絵を描いたと思い、立ち上がって「どうも、ありがとうございました!」と、頭を下げ礼を言うと、先生は「いやいや、ボクが描いたのは関東大震災のときです」と、おっしゃいました。

 それぞれの時代。それぞれの立場で、絵描きは絵を描いていたんだ。

 そう感じたボクの胸はいっぱいになり、オリーブ園の中で熱く熱くなっていったのでした。

(涌嶋克己、イラストも)

 【わくしま・かつみ】1950年神戸市長田区生まれ。画家、イラストレーター、絵本作家。86年から個展やグループ展を開催。WAKKUN(わっくん)の愛称で知られる。同区在住。

2020/10/14
 

天気(9月7日)

  • 34℃
  • 27℃
  • 20%

  • 36℃
  • 24℃
  • 40%

  • 35℃
  • 26℃
  • 20%

  • 35℃
  • 25℃
  • 30%

お知らせ