エッセー・評論

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イラストレーターWAKKUNこと涌嶋克己さん
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 新型コロナウイルスのために、落ち着かない年の始めですが、26年前、阪神・淡路大震災の時に経験したある時のことを思い出したので書かせていただきます。

 1995年1月17日の震災の日から1カ月ほどたった頃、神戸・元町でアンニュイという雑貨店をしている画家の高濱浩子さんからボクに相談がありました。

 「震災で、電車も動いてないので、元町通を、東へ西へ、リュックを背負って、疲れた顔をして歩いている人に、少しでも元気になれることを何かしたいんやけど…」

 「ほんまやなァ…」とボクもしばらく考えていて、フト、あることを思いついた。

 「そうや、ほんのつかの間でもホッとひと息できるんやったら、コーヒータイムなんか、ええんちゃうかなァ…」。そう思い立ち、ボクたちは、「木馬」や「JAMJAM」「AZUMA」等、友人のジャズ喫茶のマスターたちに声かけをした。「コーヒー豆はあるし、水もある。紙コップにコーヒーを入れて無料でくばって、みんなに『ほっ』としてもらおう!」とマスターたちからのうれしい提案があった。

 そして、マスターたちやボクたちの呼びかけに、音楽をしている友達や、絵を描いている友達からも、いっしょに参加する!の声が湧いてきた。2月22日、元町6丁目商店街で、道ゆく人々に声かけをしてコーヒーを配り、そこで絵を描いたり、歌を歌ったりするのを、見る人、演じる人、みんなの心が「ほっ」とできるゲリライベントがはじまったのだった。

 そして、ボクは出番が次にやってきたので、すぐ近くの元町通6丁目のビルの4階のアトリエに紙をとりに上っていった。

 紙と筆と墨を持ち、階段を下りようとすると、階下から「わっくん!だいじょーぶか?」の大きな声。声の主は「プカプカ」という名曲をつくった友人の西岡恭蔵さんと同じくフォーク歌手の加川良さんだった。

 「ありがとう! 遠いのに関東から来てくれたんか?」。ボクが言うと「うん! そうや。でも、そんなことより、わっくんは大きい紙もって、どこに行くんや?」と恭蔵さんがきいてきた。

 「今から元町商店街で、道ゆく人みんなにほっとしてもらったり元気になってもらったりする絵を描くんや!」とボクが答えると、恭蔵さんが「ほな、ボクも横で歌うわ!」と、うれしい申し出をしてくれたのだった。

 ボクが描く横で、恭蔵さんが歌い、加川さんが手拍子で参加するという夢のコラボが実現したのだった。

 他に今覚えているだけでもソプラノ歌手の深川和美さん、絵本作家のつよしゆうこさん、インド式紙芝居の東野健一さん、バイオリンの三木重人さん、ワールドのラグビーチームの有志の人々、ジャズ喫茶のマスターたちやその仲間たち、そして、そして、コーヒーを飲みながら参加してくださったお客さんたち…。

 95年、2月22日、元町6丁目商店街で、参加したみんなが「ほっ」とできて、そのあたたかな空気を共に味わえたのでした。(涌嶋克己、イラストも)

【わくしま・かつみ】1950年神戸市長田区生まれ。画家、イラストレーター、絵本作家。86年から個展やグループ展を開催。WAKKUN(わっくん)の愛称で知られる。同区在住。

2021/1/13
 

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