5月の中旬に神戸で作品展をした。テーマは「もらった種とまいた種」。この連載のタイトルと同じだ。場所は北野のギャラリー島田だった。
今まで長く絵という表現を続け、たくさんの人と出会い、心の種をもらって、それを絵や言葉にしてきた。
会場はボク自身の絵を描く原点を知っていただけるように、ボクの小さな歴史を見て、歩みを感じてもらえるように展示した。
その一角に長い和紙を置き、作品を見ていただいた後、メッセージやお名前などを書いてもらう参加型にしていた。
会期の終わりごろ、その日の最後に、交通事故のため松葉づえをついておられた男性と、1組のご夫婦が残られていて、和紙に墨でメッセージを書かれた。
つえをついていた男性がボクに、
「あのう、申し遅れましたが、ボクは20年以上、西宮えびすの時、WAKKUNさんの『ガッツやKOBE』の服を着て走っている福男なのです」と名乗られた。
ボクはおどろいた。テレビや新聞で彼のことを知っていて、いつの日か、あの服を着て走り続けている福男さんにお会いしたい、と思っていたからだ。
「ボクこそあなたに、お会いしたかったのです」と、上気した顔で話した。
すると隣で会話を聞いていたもう1人の男性が「えっ! あのう、ボクは東日本大震災の後、宮城県女川町の(西宮神社の福男選びを参考にした)津波の避難行事に時々参加していて、多くの方々と高台まで走っているのですが」と言う。
続けて、
「その時、たしか、西宮のえべっさんの福男さんが、スタートの合図をしておられて…。ひょっとして、あなたですか?」と福男さんに尋ねた。
福男さんは「はい!それは私です」と笑顔で答えられました。
何と、東北の女川で力強いかけ声と共に走られた神戸からの参加者と、そのかけ声を担当された福男の方が、Tシャツの絵を描いたボクの前で今、今の今、このギャラリーで出会って共に笑顔で立っている。
何と不思議なうれしい縁なんだ!
そこにいた、みんながよろこびをかみしめた瞬間でした。(涌嶋克己、イラストも)
【わくしま・かつみ】1950年神戸市長田区生まれ。画家、イラストレーター、絵本作家。86年から個展やグループ展を開催。WAKKUN(わっくん)の愛称で知られる。同区在住。
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