エッセー・評論

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イラストレーターWAKKUNこと涌嶋克己さん
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 京都の奥、美山のかやぶき美術館で作品展をしたときのこと。作品を展示した後、美術館の方が、近くにある「つるや」という旅館を紹介してくださった。

 つるやは小さな旅館だったが、すみずみまで心がゆきとどいており、ボクはうれしかった。

 風呂場に行くため廊下に出ると、そこには竹筒やカゴに入った地元の花がさりげなく生けてあった。小ぶりな風呂の木のフタを取ってみると、何と湯船に7、8センチの小さなササ舟が二つ、それぞれ2、3輪の小さな花をのせ、ぷかぷか浮いていたのだった。

 宿の御主人は岡本千鶴さんという女性で、「展覧会の作品づくりで少々つかれているので、食事を少な目にしてください」というボクの言葉に、

 「そりゃ、いけませんねぇ」の言葉と共に一升ビンを持って来られた。

 一升ビンの中には松葉サイダー(赤松の葉に砂糖を加え、水を入れて、天日に当てては縁の下に戻す-を数日間くり返すとできる胃の薬)が入っていて、体にいいから飲みなさい、と勧めてくださった。サイダーを飲んでしばらくすると、何と食欲が出てきたのでした。

 次の日、美術館でボクの作品をみてくださった千鶴さんから、ニコニコしながら

 「今日からは私のことをちいばあ(、、、、)と呼んでね」

 とのうれしい申し出があった。

 その夜、ちいばあはボクに本当にステキな話をしてくださった。

 「美山ではね、毎年5月8日をヨウカビといってね、家の横に長い竹竿(たけざお)を立てて、その上に、8種類の野の花を生けるのよ。

 そして、その竿(さお)の上にお天道(てんと)さんがいらした時に、みんなで手を合わせ『お天道さま、あなたのおかげで農作物もできます、洗濯物も乾かせてもらってます。いつもいつも、ほんまにありがとうございます』と感謝するのよ」

 と、教えてくださいました。

 話の最後にちいばあはボクの目をまっすぐに見て、

 「その花を天道花(てんとばな)と呼んでね。そして、それが生け花のはじまりなのよ」

 と、教えてくれたのでした。

(涌嶋克己、イラストも)

【わくしま・かつみ】1950年神戸市長田区生まれ。画家、イラストレーター、絵本作家。86年から個展やグループ展を開催。WAKKUN(わっくん)の愛称で知られる。同区在住。

2021/9/8
 

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