エッセー・評論

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イラストレーターWAKKUNこと涌嶋克己さん
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 昔、神戸・元町、南京町の南、乙仲通に「cotton」という名の喫茶店がありました。

 小ぶりだけれどシックで品のよいステキなお店で、一日中、ドイツ製とイギリス製の自動プレーヤーに置かれたLPレコードからタンゴの曲がゆったり流れていました。

 誠実そうで品のよいマスターと美人の奥さんがつくり出す店の空気とコーヒーの味に、客は心から安らぎを覚えるのでした。

 店のお客が途切れた午後の時間、よくお二人で向き合って味わっていらっしゃるコーヒータイムは、外から見ている客の方が、見とれてしまう。あたたかな空気に心がぽっとなってしまうのでした。

 うっかり店のドアに手をかけた時、

 「あっ!」。お二人のコーヒータイムだ!と気づき、あわてて、ゆっくりドアをもどし、そっと店から離れていったものでした。

 ボクが通いはじめて数カ月ほど経(た)ったある日、元町の大丸前でバッタリ、コットンの奥さんと出会った。

 軽いあいさつの後、ボクは思い切って奥さんに話しかけました。

 「あのう、前から、お聞きしたかったのですが、『コットン』というお店の屋号は、何から付けられたのですか?」

 奥さんは、はにかみながら、でも、少し、うれしそうに、こう答えてくれました。

 「あれはね、主人のニックネームなの。ウールでも絹でもない、でも、まして化繊ではない。コットン(、、、、)という感じでしょ!彼」

 他の人から聞くと、テレるような答えが返ってきた。

 でも、つつましく、品のよい奥さんの、はにかみながらもストレートな答え。

 それを聞いたボクの心は、しみじみうれしく。「その通りですね」と何度もうなずき続けたのでした。(涌嶋克己、イラストも)

【わくしま・かつみ】 1950年神戸市長田区生まれ。画家、イラストレーター、絵本作家。86年から個展やグループ展を開催。WAKKUN(わっくん)の愛称で知られる。同区在住。

2021/3/10
 

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