兵庫の自然災害といえば、まず地震や風水害が思い浮かぶ。近畿と四国に活火山はなく、県内で噴火を想定した対策や訓練は記憶にない。
ところが神戸・六甲山の山中には、火山灰の痕跡がある。約7300年前、鹿児島市沖約100キロにある海底火山・鬼界カルデラの巨大噴火で飛散した「アカホヤ」と呼ばれる火山灰の地層だ。登山道にはその存在を示す看板も立っている。
このときの火砕流は海を渡って薩摩半島に達し、南九州の縄文文化を絶滅に追い込んだ。火山灰は本州の広域に飛散し、県内では20センチほど降り積もったとみられる。
火山灰が怖いのは、鉱物やガラスの微細な破片を含み、電子機器などに影響を及ぼす点だ。
政府の中央防災会議は富士山の噴火をモデルに火山灰の被害想定を公表している。微量でも電車は走れず、数センチで火力発電所の吸気フィルターの交換回数が増え発電能力が低下する。20センチともなれば社会全体に壊滅的な影響が及ぶのは間違いない。
鬼界カルデラの海底調査を続けている神戸大学によると、次の巨大噴火に向けてマグマを蓄え続けている可能性が高い。今後100年の発生確率は1%。決してゼロではない。
日本は世界有数の火山国でありながら、研究体制の脆弱(ぜいじゃく)さが指摘されていた。このほど成立した改正活火山法では、政府内に「火山調査研究推進本部」を設け、気象庁や大学などの連携強化を図ることが決まった。
「関西は大地震と無縁」とのかつての俗説は阪神・淡路で覆った。兵庫は噴火被害と無縁というのも人間の勝手な思い込みだろう。備えあれば憂いなし。だが大量の火山灰から社会を守る方策は、果たしてあるのか。
