「社長より優れた社員はいない」と、旧知の女性経営者がよく言っていた。
どういうことかと尋ねると、分かってないなぁという顔で説明してくれた。「うちみたいな中小企業が優秀な人を雇って一緒に働くには、社長自身が能力を伸ばさないとだめ。でないと、有望な人ほど早々に会社に見切りを付ける」
最近、ある男性社長からも同じようなことを聞いた。「会社の器はトップの器で決まる。だから学び続ける必要がある」。どちらも自身の失敗を率直に語る人だ。経営者の孤独や重圧は、会社員である自分の想像をはるかに超える。
兵庫県中小企業家同友会(事務局・神戸市)は、経営者同士が体験を共有し、学び合う組織だ。2千人以上が加盟する。毎月発行の会報誌にはさまざまな失敗談が掲載される。
社員の言動がどうしても許せず訴訟に発展し、それがきっかけで社内の信頼を失い、従業員が半分に減った▽幹部やメインバンクの大反対を押し切って同業他社を買収したものの、事業計画が甘く2期連続の赤字で撤退した▽育児と社長業の両立に疲れ果て、鬱(うつ)になった-。
「人として未熟で、経営者としてもポンコツでした」と反省の弁を述べる社長もいた。皆、社名、名前、顔写真を堂々と出している。会社を舞台とした濃厚な人間ドラマを見るようで、毎号引き込まれる。
興味深いのは、危機に際して会社の理念やビジョンに改めて向き合い、再構築するなどして、乗り越える原動力とする経営者が多い点だ。苦しいときこそ原点を見つめ直し、希望の持てる方向性を指し示すことが大事。社長たちが異口同音に発するメッセージである。
