衆院の憲法調査会で、大規模な自然災害などが起きた際に国会議員の任期延長を可能にする「緊急事態条項」の創設を巡る議論が進んでいる。
その必要性を考えようと、先日東京で開かれた日弁連主催のシンポジウム「大災害と民主主義」にパネリストとして参加した。討議を通じ、国会での議論が広く知られていない現状に危機感を抱いた。メディアに身を置く者として、反省もした。
憲法は議員任期を衆院4年、参院6年と定める。任期延長を巡っては、自民党が「緊急事態時にも国会の機能を維持する」として改憲を訴え、公明、日本維新の会、国民民主など4党派も同調する。立憲民主党は慎重な議論を求め、共産党は「保身のための議論」と反対する。
憲法は衆院解散時に大災害が起きた場合、参院の緊急集会で対応すると定めている。災害対策基本法など関連法は一定の私権制限も規定する。そもそも選挙が実施できない緊急事態は極めてまれだろう。その認定が内閣の判断に任されるとなれば、有権者の審判を受けない政権の延命にも利用されかねない。
災害時には被災地の意思を政治に反映させるため、選挙を急ぐ必要もある。パネリストを務めた日弁連憲法問題対策本部の小口(おぐち)幸人弁護士は「避難先から投票できる仕組みの導入など、災害に強い選挙制度に改めておくべきだ」と提言する。
28年前の阪神・淡路大震災で被災した一人として、憲法が復旧・復興の妨げになった記憶はない。痛切に感じたのは、被災者の生活再建支援など法律や制度の不備である。震災関連死や孤独死など、その後も繰り返される悲劇をなくすためにも、求められるのは、憲法の基本的人権を守る冷静な議論だ。
