日々小論

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 今年は神戸出身の作曲家、大沢寿人(ひさと)の没後70年に当たる。戦前、戦後の激動期を生き、47歳で早世した天才が残した音の世界に触れる機会があった。

 終戦の前年に書かれた「ベネディクトゥス幻想曲」。バイオリン独奏と管弦楽、合唱を組み合わせた大作で戦後、ラジオで2度放送されたが、音源は残っていない。それ以降、長く埋もれていた曲だ。

 コンサートでの上演は今回が世界初だという。先日、神戸文化ホールで開かれた「ガラ・コンサート 神戸から未来へ」がその舞台となった。

 挑んだのは神戸市室内管弦楽団と神戸市混声合唱団で、バイオリン独奏は楽団の首席コンサートマスター・高木和弘さんが担当し、世界的指揮者の山田和樹さんがタクトを振った。

 楽譜から再現された曲はバイオリンが自在に旋律を奏で、管弦楽と合唱がそれに応じるように展開する。現代とのずれをまったく感じさせなかった。

 ボストンとパリに留学した大沢はクリスチャンでもあり、戦争の激化に葛藤を抱えていたという。灯火管制の下で書いた曲の題に、カトリックの典礼文にあるラテン語「ベネディクトゥス(祝福あれ)」を付した。

 男女の合唱が「神の祝福あれ」「栄光あれ」と繰り返す。それは戦火の中で平和や人類愛を希求した、若き日の大沢の祈りだったに違いない。

 「切なる魂がこれを書かずにいられなかった」と、大沢の再評価に取り組む生島美紀子さんも著書「天才作曲家 大澤壽人」(みすず書房)で指摘する。

 ウクライナの戦火が全人類に影を落とす中、この曲がよみがえったのは偶然とは思えない。何度も演奏されるべきだろう。神戸から世界へ、未来へ。

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