神戸市長田区北部の丸山地区は、複雑な地形に広がる住宅地だ。戦後の高度成長期に急増した家々が急斜面に立ち、坂道や階段が入り組む。戦前は「神戸の奥座敷」と呼ばれ、別荘などが並ぶ行楽地だったと聞く。
その一角、丸山病院の南側にある古民家が先月、改修を終えて、地域の人たちが集まるスペースとしてよみがえった。庭と行き来できる広い土間を設け、テーブルを置いた。天井などを取り払って、柱や梁(はり)の美しさが味わえるようにしている。
元は料亭だったそうで、玄関の意匠などにその面影が残る。付近には1932(昭和7)年から10年ほど、花の名所の丸山遊園地があった。行楽客が寄る場所だったのかもしれない。
空き家だったこの古民家を譲り受けたのは、同市兵庫区の社会福祉法人シティライト。社会貢献のための改修費用などを市が補助する「建築家との協働による空き家活用促進事業」を知り、応募して採用された。
庭の地蔵にも木製の覆いを設け、地域のシンボルのようになった。同法人理事の山田弥生さんは「建物が残ったことを皆さんが喜んでくれた」と話す。
6日までは画家の涌嶋克己さんの個展を開催、その後は毎週火曜日などにオープンする。自然食品や古書の販売など、利用法は今後広げていくという。
空き家は全国に850万戸あり、30年間で倍になった。倒壊の危険など多くの問題を抱え、国や自治体が対策を進める。36万戸がある兵庫県は昨年、活用につながる規制緩和を盛り込んだ全国初の条例を施行した。
今回完成した建物は「まちのあかり 丸山の家」と名付けられた。まちの陰りを表しているような空き家が、灯(あか)りとして再生する好例になってほしい。
