日々小論

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 外から見れば過去の出来事の一つでも、その土地に刻まれた逃れがたい記憶がある。宮崎にとってはこれなのだろう。宮崎県農業科学公園内にある「口蹄疫(こうていえき)メモリアルセンター」(高鍋町)を訪ね、畜産王国に残る爪痕の深さを知った。

 口蹄疫は主に牛、豚などの偶蹄(ぐうてい)類に感染するウイルス性伝染病で感染力が強い。2010年4月、宮崎県東部で発生し、8月の終息宣言までに県内飼育頭数の4分の1を占める牛や豚約30万頭が殺処分された。市場での宮崎ナンバー車の締め出しや農産物への風評被害も招き、2350億円の経済損失を出した。外出自粛やイベント中止などで県民生活も打撃を受けた。

 感染が確認された農場の牛は法律に従い、ウイルスを封じ込めるため全頭処分された。感染していない牛も、ブランド牛の種牛も、生まれたての子牛も、例外は認められなかった。

 12年にできた同センターは、当時の映像や写真、関連資料を保存展示し、体験者の話を聞くこともできる。県立農業大学校の松田義信校長は当時県職員として最初の殺処分に携わった。「牛や豚は一頭一頭が重く、処分する人間の体と心の負担も重かった。できれば思い出したくない記憶です」。その表情だけで過酷さが伝わってくる。

 感染は宮崎県内で抑え込まれ、その後、国内では発生していない。だが先月、韓国で4年ぶりに牛への感染が確認された。新型コロナウイルス感染症の5類移行で人の動きが増す中、宮崎県などは防疫の徹底を呼びかけている。空港の到着口にも消毒マットが敷かれていた。

 どんなに思い出したくなくても忘れてはならない、と人々が刻みつけてきた苦い記憶を次への備えに生かさなければ。

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