サルの飼い主が「今後はえさの量を朝三つ、夕方四つにする」と告げたところ、少ないとサルが怒り始めた。「では朝四つ、夕方三つに」と告げると喜んで受け入れた。目先を変えてごまかすことを意味する故事成語「朝三暮四」の由来だ。
まさか政府は、国民をこのサルと同じとみていないか。
政府が「異次元」と銘打つ少子化対策の財源で、岸田文雄首相は「消費税も含めた新たな税負担は考えていない」と明言したが、政府内からは社会保険料の引き上げや扶養控除の見直しといった動きが聞こえてくる。
社会保険料も税金も、国民にとって避けられない負担には変わりない。扶養控除を見直すと、世帯によっては課税額が増える。企業や国民の稼ぎのうち税金や社会保険料の割合を示す「国民負担率」は50%直前に迫っているが、さらに上昇する可能性がある。
今後5年で43兆円が必要とされる防衛費の財源には、東日本大震災の復興目的税の一部を充てるという。それはそれで問題なのだが、復興目的税の課税期間は伸ばすというから、結局は増税になる。
増税とさえ言わなければ国民は容認すると考え、あの手この手で負担を増やそうとするのが透けて見える。
朝三暮四には「目先にとらわれて大局を見失う」の意味もある。増税か否かにとらわれると、重要政策の財源確保に苦しむ財政の現実を見失う。
そもそも国の予算は飼い主からのお恵みではない。税金の集め方も使い方も、最終的には国民が決める。硬直化した政府の予算編成を大胆に改革しなければ、人口が減り続ける社会を維持できないのは、サルでも分かりそうなことだ。
