原爆ドームのある町で子どもたちが並んで叫ぶ、そのかけ声は衝撃だった。
「とうちゃん かあちゃん ピカドンで ハングリー ハングリー」
漫画「はだしのゲン」を初めて手にとったのは、小学6年生の時。教室の隅っこに全巻がそろえて置かれてあった。担任の先生の私物らしく「好きに読んでいい」という。ギャグ漫画しか知らなかった子ども心にその絵は恐ろしく、はじめは好きになれなかった。ところが。
ゲンには、強烈な磁力があった。目をそむけたいのに引きつけられる。ページをめくる手が止まらない。インパクトのある描写もさることながら、数々のせりふが心をとらえた。
「生きて生きて生きぬいてやるわいっ」
主人公の少年ゲンがそう誓ったように、漫画は原爆で家族を亡くした彼や仲間たちが焦土のヒロシマで強く生きようとする物語。冒頭の「ハングリー」は米軍にガムやチョコをねだる際に唱えた言葉だった。
涙の中に笑いもある。しかし全巻を通して充満していたのは圧倒的な「怒り」の感情だ。
「お母ちゃんの骨をかえしやがれっ」「まだ戦争はおわっとらんぞ わしらいつまでもつづいているぞ」
原爆を、戦争を許さない。それらをなくそうとしない人たちを許さない。ゲンの怒りはやがて読み手である自分にも向けられた気になってくる。わりゃ、なんで怒らんのじゃ、と。
連載開始から今月で50年だという。子どもたちが手にとる機会が増えるといい。「核なき世界」が近づくどころか遠のいたとさえ感じる今、ゲンは心底怒っているだろう。「おどれら、あきれたバカじゃのう」
