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川に流された女性を助け、感謝状を受け取る八木敬朋さん=東灘署
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川に流された女性を助け、感謝状を受け取る八木敬朋さん=東灘署
流される女性を見つけ、川に飛び込んだときの状況を振り返る八木敬朋さん。この日は流れが穏やかで、親子連れが魚を捕まえて遊んでいた=神戸市東灘区魚崎西町1、住吉川
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流される女性を見つけ、川に飛び込んだときの状況を振り返る八木敬朋さん。この日は流れが穏やかで、親子連れが魚を捕まえて遊んでいた=神戸市東灘区魚崎西町1、住吉川

 豪雨で増水した川に流されていた60代の女性を助けた神戸市東灘区在住の会社員、八木敬朋さん(40)に警察から感謝状が贈られた。目の前は海という下流部で、少しでも発見が遅れていれば、行方不明になっていた恐れもあった。八木さんは「とっさのことで、気がついたときには川へ飛び込んでいた」と、約3分間の救出劇を振り返る。 

■濁流の中を二度見した

 東灘区内を流れる住吉川は、いつもは膝よりも水位が低いくらいで、流れは穏やか。水遊びをする親子連れをよく見かける。

 神戸市内で未明から朝にかけて激しい雨が降った7月12日。午前8時20分ごろ、八木さんは子どもを保育園へ送り、家まで歩いて帰る途中、同区魚崎西町付近で橋を渡った。水は泥色に濁り、ごう音を上げて流れていた。

 傘を差して橋の中央辺りを歩きながら、川の中を思わず二度見した。人が空を見上げるように流されていた。「はじめはマネキンかと思いました」。橋の上からは男性か女性かは分からなかった。

■不思議と重さは感じなかった

 いつのまにか、握っていた傘を放り投げていた。ポケットにスマートフォンが入ったままだったが、気にかける余裕はない。スロープを伝って岸へと走り降りた。川の中の人は既に、見つけた場所から10メートル以上も下流に流されていた。

 川に足から飛び込み、濁流をかき分ける。女性だった。「近づいても大丈夫ですか?」と声を掛けると、女性は「もういいんです。放っておいてください」と言った。「そんなわけにはいかない」と水中で抱え、脚を取られて転倒しながらも、何とか岸に引っ張り上げた。

 発見してからわずか3分ほどの出来事だった。近くにいた人が119番。女性は脱力していて、不思議と重さは感じなかった。

■橋の下で交わした言葉

 救急車が着くまで、橋の下で雨宿りをしながら女性と少しだけ話をした。女性は「両親を亡くして人生が嫌になった」と言った。

 ぐったりしていたが、はっきりとした話しぶりが印象に残っている。八木さんは駆け付けた救急隊員と警察官に「気を付けてあげてください」と伝え、後を任せた。

 自宅へ帰ると、体中が砂まみれだった。靴に入った土砂はなかなかとれなくて、何度も洗った。しばらくは夢か現実か分からなかった。1時間ほどして、体の節々が痛くなり、はっとした。

 「流されないようにすごく踏ん張って力が入っていたのだと思います。そのときは分かりませんでしたけど。火事場のくそ力というやつでしょうか」

■僕は邪魔をしてしまったのかもしれない

 東灘署によると、女性は脚に軽いけがをしたが、すぐに病院から自宅へ帰ることができたという。

 女性を助けた場所から100メートルほど先は海だ。あのとき、そこにいたのは八木さんだけ。「少しでも気がつくのが遅れていたら海に沈んでいた」と考えると、ぞっとする。

 「女性からすると、そもそも僕は邪魔をしてしまったのかもしれない」とも思う。それでも、普段から「自分にできることは全力でやる」と心に決めていた。だからこそ、考えるより先に体が動いた。

 東灘署長から感謝状を受け取った八木さんは「(女性の)お体は大丈夫でしたか?」と警察官に尋ね、こう言った。

 「感謝の言葉なんていらない。今は大変かもしれないけれど、ただ、元気でいてほしいと願うばかりです」(大田将之)

→「東灘区のページ」(https://www.kobe-np.co.jp/news/higashinada/)

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