京都で創業300年を超える老舗の材木商「酢屋」を継承する「千本銘木商会」の中川典子専務が、「福寿」の蔵元である神戸酒心館(神戸市東灘区御影塚町1)で「現代の銘木師」をテーマに講演した。中川さんは全国で初めてとされる女性の「銘木師」。若き日に阪神・淡路大震災からの文化復興に立ち会い、浮かんだ疑問の答えは今、確信に変わったという。(井上太郎)
■木の第2の人生を作る
酢屋は1721(享保6)年創業。幕末には大阪から伏見、京へと通じる「高瀬川」の木材独占輸送権を持ち、運送業も掌握した。坂本龍馬が身を寄せ、船中八策をまとめて大政奉還に向けた活動を展開した場所でも知られ、司馬遼太郎の長編小説「竜馬がゆく」にも酢屋の名前が登場する。
9日に神戸酒心館であった「酒蔵文化道場」に登壇した中川さんは、約20人の受講者を前に、「銘木師」の仕事について話した。
銘木師とは、木の目利きや加工を担う職人。その醍醐味(だいごみ)として挙げるのが「木取(きどり)」だという。
木取とは、製材前に、その丸太からどんな板材や角材を取るか「設計」すること。海外では樹齢が10年でも100年でも同じように製材するが、樹齢に適した製材をするのは日本固有の技術だという。
木や森には神が宿るという日本固有の畏敬の念が背景にあるとし、中川さんも「木の第2の人生を作っていると思って、木の命を生かす仕事をしなさい」と祖父が口にしていた教訓を胸に刻んでいる。
扱うのは「つまようじから文化財まで」と幅広く、現代は町家のリノベーションも重要な仕事になる。
「人々の身近にありそうで、実はなくなっている『木のある暮らし』を、コーディネートする存在であり続けたい」と強調した。
■資格ではなく称号
実は銘木師という国家資格はなく、昭和30~40年代に銘木業界の長老3人が後継者たちに与えた称号だという。名乗れるようになった1人が、人間国宝の木工家、黒田辰秋氏が使う銘木を扱った中川さんの祖父だった。
中川さんが「銘木師として認められるようになったきっかけ」と振り返るのが、上賀茂神社(京都市)の式年遷宮。「日本一長い絵馬」の復元事業で、平均の2倍の長さの、8メートルの板を探すのに難渋した。
あきらめて断ろうとした時、高齢のきこりから立派なヨシノスギの板を提供すると連絡があり、無事にやり遂げられたという。
「全国銘木青年連合会」では50人中唯一の女性メンバーとして、啓蒙活動や異業種との交流、勉強会を展開している。
■床の間の必要性
「壊してしまってさようなら、ではない。作り替えながら古い建材を受け継いでいけるのが、世界でも珍しい日本建築の素晴らしさ」と、中川さんは言う。
だが、その文化と技術は風前のともしびになっている。京都では年間8千軒もの町家が姿を消す。「山の仕事」もしかり。中川さんによると、丸太に発色の良いアカマツの皮を貼ってくれる職人が昨年、ついに一人もいなくなった。
角材と丸太を組み合わせる技術も日本建築の強みだが、丸太を使えない大工が増え、ハウスメーカーからの受注も激減し、産地は疲弊している。
地元の大学で中川さんが100人ほどの学生に授業をしたとき、学生たちは「床の間」について、必要性を感じないと答えたという。
危機感が募った中川さんは、学生たちを巻き込んで、新しいデザインの床の間づくりを試みた。格子や円相窓を取り入れた完成品に、学生たちは掛け軸や花ではなく、人気アニメのフィギュアを飾った。
「価値観は変化している。現代の暮らしにどうやって木の文化、建築を取り入れてもらうかを考えながら、新しい価値を生み出していきたい」と、中川さんは語った。
■再会
講演を終えた中川さんは、会場の「神戸酒心館ホール」を懐かしそうに眺め、写真を撮っていた。
ホールはもともと貯蔵用の蔵だった。阪神・淡路大震災で被災した際、背の高いタンクに屋根が引っ掛かったおかげで、全壊を免れたという。
その保存修復作業に、当時は茶道美術や茶室建築の出版社に勤めていた中川さんが携わっていた。神戸酒心館の安福幸雄会長は「今回、講師を頼んだ後で初めて知った。不思議な縁」と驚く。
「こういうときこそ神戸の文化がなくてはいけない」「これだけはなんとか残させてほしい」。安福さんらが当時、そう言って木造の蔵の保存を訴えていた姿が、中川さんの記憶に深く残っているという。
「そんな悠長なこと言ってていいのかな」と、当時20代の中川さんは思った。誰もが復興を急ぎたいはずの緊急事態に「文化の香り」は必要なんだろうか、と。
あれから二十数年。疑問の答えが見つかった気がする、と中川さんは笑顔で話した。「古い物を生かして良かった。そう確信できた。私にとってはここが復興のシンボルです」
◇
酒蔵文化道場は毎月、さまざまな分野の講師を招いて同ホールで開催している。次回は8月28日、気象予報士南利幸さんが講演する。ビジター参加料は2千円。日本酒「福寿」の試飲もある。講演後の懇親会は別途4千円。神戸酒心館事業部TEL078・841・1121
→「東灘区のページ」(https://www.kobe-np.co.jp/news/higashinada/)
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