
かたちないもの(撮影・鈴木雅之)
今年の春、衝動に駆られて庭の枯れ木を数本伐(き)り倒し、輪切りにして、薪を作ったことがあった。その後はずっと庭の片隅に放り出してあったのだが、先日突然思い立って片付けようとすると、正体不明の白い物体が付着しているのに気がついた。柔らかな網に包まれている2個の卵嚢(らんのう)らしいとわかったが、薪から引き剥がしたとき、ようやく、そばにいる小さな蜘蛛(くも)に気がついた。卵を護(まも)る母蜘蛛だろう。見慣れない蜘蛛だと思ってよくよく見ると、全身はつやつやした黒で、背中に特徴的な赤い模様がある。国産の蜘蛛にはない特徴であり、それがセアカゴケグモであることはすぐにピンときた。
1995年に日本に侵入して以来、しばらく新聞紙面を賑(にぎ)わわせていたが、最近はさっぱり名前を聞かない。我(わ)が家は比較的標高の高い場所にあるので、とうとうここまで来たのかと思い、西宮市の環境衛生課に電話してみた。幾ばくかの共感と憂慮の混じった反応を、ひそかに期待しながら。
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