
「文字は進化する?」(撮影・吉田敦史)
作家は言葉が生業(なりわい)だが、必ずしも日本語に造詣が深いわけではない。私自身、〆切(しめき)りギリギリで推敲(すいこう)が不十分な原稿には、校閲の厳しい鉛筆が入って戻ってくる。日本語には、「自認」と「自任」、「追及」と「追求」、「追究」など、同音で意味が似た言葉が多く、ザビエルに「悪魔の言語」と呼ばれたのもむべなるかなだが、自分がいかに日本語に無知なのか思い知らされたのは、小学生の子供の勉強を見てやったときだ。いつのまにか、ひらがなで長音を書き表すのに音引きを使ってはいけないというルールができていたことを知らなかったのである。
「おとうさん」を「おとーさん」と書いてはいけないのは当然だろうが、このルールが外来語にも頑(かたく)なに適用され、たとえば「えすかれーたー」ではなく「えすかれえたあ」と、「こーひー」は「こおひい」と書かなくてはならず、これは1991年の内閣告示によるものらしい。
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