兵庫県こころのケアセンター(神戸市中央区)で今月21日に開かれた「中井久夫先生を偲(しの)ぶ会」。報告の後半では、統合失調症の患者らに寄り添い、文筆家として作品に情熱を傾けた姿を、医師や編集者の声を通して伝えたい。
■医師として
県立ひょうごこころの医療センター院長の田中究(きわむ)さん、川崎医科大名誉教授の青木省三さん、高槻病院精神科主任部長の杉林稔さん。いずれも精神科医の3人が「治療者中井久夫・患者さんとともに」をテーマに語り合った。
田中「自分の普段の臨床の所作を考えると、ふと、なんでこんな態度してるんやろかと思うことがある。例えば、目の高さ。考えてみると、中井先生が現れてくる。自分の中に先生が染み渡っている」
青木「先生との出会いの1回目は、1977年に精神科医になり、仕事を辞めようかと悩んでいた時。夜の当直中、不思議と引き込まれたのが先生の論文だった。最初はソファに寝転んでいたが、寝転んで読むわけにいかないとなり、座って読んで、最後は論文と向き合う姿勢になった。それまでに読んだ論文とは、患者さんに向き合う角度が違う。上からではなく、同じ目の高さ。先生に会いたくて、手紙をやりとりするようになった」
「先生が神戸大に移ったばかりの頃(1981年)、アパートに来なさい、そこで会いましょうとなった。僕の経験を話したり、臨床について教えてもらったりして、2~3時間たつと、まぁビールでも飲もうとおっしゃった。夜中1時になり、君、帰れないだろう、ここで寝たらどうか、と。そして、枕や布団はどんなタイプがいいかと聞いてくれた。次の日、早朝に電車で(当時住んでいた)岡山県に帰ったが、人と出会うとはどういうことか、先生に教えてもらった。一生忘れられない」
青木さんはその後、中井さんから「非常勤の席が空いた」との電話を受け、神戸大で働き始める。
青木「神戸大の医局は、面白い空間だった。医師たちは、中井先生を尊敬しているけど、それぞれが自分の好きなことをして、失礼なことも言う。それを中井先生は好んでいる。人が育つ場所だった」
杉林「私は中井先生の下で研修したくて、外来を3年ほど見学させてもらった。先生と一緒にいると、何か新しいことに挑戦してみようという気持ちになった」
田中「私は神戸大で研修医になったばかりの頃、中井先生に『本とか論文とか読むな』と言われた。『患者のそばに行きなさい』と。最初は勉強せんでいいんや、と思ったが、同時に先生は患者さんについての見立て、仮説を複数立てなさいとも言われた。一つしか立たないなら、その仮説は間違っていると。とても難しくて、当時の私は(大学近くの)大倉山公園に患者さんと行き、ブランコに乗ったりして、その様子を細かく書き続けたりしていた」
「人を見る。観察する。中井先生はそれを一生懸命した人だった。そのことを私たちは教わった」
■文筆家として
「編集者からみた中井久夫」のテーマでは、ノンフィクションライターの最相(さいしょう)葉月さんが司会をし、みすず書房の前社長で中井さんの担当編集者だった守田省吾さん、ラグーナ出版の会長で精神科医の森越まやさんが交流を振り返った。
守田「1986年から中井先生の本を作ってきて、僕自身が手がけたのは40冊以上。大変なことはいっぱいあったが、それこそ僕より前、若き中井久夫を担当した編集者がどれだけ大変だったか。前任からは、中井先生の編集者は胃潰瘍になるから気を付けてね、と言われた(笑)」
「先生は書き出したら止まらない。仮に100枚で書いてと言ったら、その数倍書いてくる。掲載できませんといったら、このまま載せてくださいと。校正は真っ赤になって返ってくる。いつまでたっても終わらない。編集者にとって一度は本を作ってみたい著者ではあるけど、何度も作りたくない著者でもある。そういう意味で、日本の文壇の中で希有(けう)な人だった」
阪神・淡路大震災の発生2カ月後、中井さんの著書「1995年1月・神戸 『阪神大震災』下の精神科医たち」がみすず書房から出版される。そこに所収された「災害がほんとうに襲った時」は、当時ファクスがパンクしていたため、守田さんが中井さんの話を電話で3~4時間、聞き書きした内容だという。
中井さんが晩年に関わったのが、精神疾患の患者が編集部で働く鹿児島県のラグーナ出版だった。
森越「患者さんが書いた本の書評を中井先生にお願いしたことがあり、そこには『病気が人を豊かにすることもあるのだ。そういう資質を予想よりも多くの患者が秘めていて引き出されるのを待っているのではないだろうか』とあった。何とも言えない力をもらった」
鼎談(ていだん)の終盤、最相さんが「中井先生はこの世界に何を残されたのでしょう?」と聞いた。
守田「先生とは統合失調症の本をまとめたいとか、まだプランがあったが、できなかった。読者にとっての中井先生はすごい人、天才だと思うが、僕は彼の駄目なところ、甘えたとか、いろんなところを知っている。ネガティブなことを言いたいのではなく…。お付き合いと作品を通して分かるのは普通の『ヒューマンな人だった』ということ」
森越「中井先生の言葉を患者さんと読んでいくと、患者さん自身が元気になっていく。読んで回復していく。言葉といろんなものをつないでくださった」
守田「亡くなられても、言葉はいくらでもずっと残っていく。読まれ方も読む人の成長の中で変わっていく。世の中に送られた彼の言葉を、本という形に残す仕事ができたことは光栄に思います」(記事・中島摩子、撮影・風斗雅博)
◇
【なかい・ひさお】1934年奈良県生まれ。甲南中・高、京都大卒。精神科医。神戸大名誉教授、「兵庫県こころのケアセンター」初代センター長を歴任。翻訳家、文筆家としても活躍し、2022年8月、88歳で死去。
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